大乗経典における非如理作意を因とする煩悩生起説
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概要
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高崎[1988]は,『宝性論』にみられる「非如理作意を因とする煩悩生起説」が『陀羅尼自在王経』(DhR)『虚空蔵所問経』『無尽意経』『智光明荘厳経』『菩薩蔵経』などの大乗経典に典拠を求めうること明らかにした.さらに,佐々木[1991]は『宝性論』の煩悩生起説を2種類に大別し,それぞれの起源が説一切有部の論書とアーガマにまでさかのぼるものであることを明らかにした.本稿では,上記の先行研究にもとづいて調査した結果,同様の説が従来指摘されていない大乗経典に確認できたことを報告する.また,既に先行研究で扱われた典籍も含めて,各典籍で諸訳対照をなして,大乗経典にあらわれる同説の来歴を探りつつ,佐々木[1991]で残された問題である,説一切有部などの諸論書と大乗経典との関連・関係を解明の一助となることを目指す.「非如理作意を因とする煩悩生起説」を含む新出資料として,『梵天所問經』(VbrahP)『出世間品』(Lp)『宝筐経』(Rk)『阿闍世王経』(AjKV)および菩提流支訳『大薩遮尼乾子所説經』,曼陀羅仙・僧伽婆羅訳『大乘賓雲經』が挙げられるが,いずれもこれまでに如来蔵思想との関わりが指摘されてこなかった.また,以上のうち,VbrahP,Rk,AjKVが「文殊系経典」に分類されることは注目に値する.一方,AjKVの支婁迦讖訳およびDhR,Lp,Rkの竺法護訳といった古訳経典に同説が確認できたことから,同説は比較的早い段階に大乗経典に導入された可能性が高く,また,説一切有部所伝のものとは異なる独自性の高い説がAjKVに見られたので,同説については,説一切有部から大乗経典への影響関係のみならず,大乗経典相互の影響関係を考慮する必要があるだろう.
- 2010-03-25
著者
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