C/C 複合材用CVD-SiC 耐酸化膜の酸化消耗特性の研究
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
炭素繊維強化炭素複合材料(C/C複合材)の耐酸化膜の候補として,化学気相蒸着法によって成膜する炭化ケイ素(CVD-SiC)膜を選定し,その高温空気中における酸化特性と炭素基材との適合性を評価した。試験片としてはCVD-SiC 板材,CVD-SiC 被覆C/C 複合材およびCVD-SiC 被覆黒鉛材の三種類を用いた。評価試験は電気炉を用いて高温の常圧静止空気中に試験片を暴露する方法で行った。雰囲気温度は1673 〜1973K,暴露時間は1 分〜 285 時間とした。得られた主な結果は次の通りである。 CVD-SiC材の酸化速度は加熱の初期段階においては比較的に大きいが,表面にSiCの酸化物であるシリカ層が発達するにつれて優れた耐酸化性を示すようになる。温度が1873K の例では,質量の変化から求めた平均的なSiC 表面の後退速度は,加熱開始後20 分までは約0.6μm/hr と大きいが,それ以降は約0.08μm/hr に低下する。酸化速度は高温になるほど大きくなる。また,CVD-SiC 材とアルミナ材が接触した場合には,1923K以上で1h 以上の加熱条件でシリカ層の溶融,発泡を生じ,SiC 材の酸化速度の増大が見られた。CVD-SiC 被覆C/C 複合材は加熱初期の質量減少率が大きく,1973K の場合で1.2 × 10^4〔g・m^<-2>・hr^<-1>〕に達するが,加熱時間の経過につれて低下し,1 時間以上の加熱では5 × 10^2〔g・m^<-2>・hr^<-1>〕以下となる。この加熱初期の急激な消耗は,CVD-SiC 成膜工程で基材との熱膨張係数の違いにより膜に発生するクラックを通して,酸素がC/C複合材側に侵入するために起こる。その後,SiCの酸化で生じるシリカによってクラックが封止されるために一時的に酸化損耗が抑制される。しかしながら,時間の経過に伴ってSiC膜のクラックを通してシリカとC/C複合材の接触が起こり,揮散反応を生じてシリカとC/C複合材の両方が損耗する。更にこの際,シリカ膜の内面の蒸気圧の上昇によってシリカ層が発泡して壊れるため,外部から侵入する酸素の遮蔽が不完全となって基材の損耗が促進される。 CVD-SiC 被覆黒鉛材では加熱初期に質量の減少がほとんど見られない。加熱時間の経過と共にCVD-SiC膜にピンホール損傷が発生し,これが起点となって徐々に質量の減少が始まる。一旦CVD-SiC 膜に損傷が発生すると,C/C複合材の場合と同じメカニズムで試験片の損耗が進行する。ピンホールが発生する原因としてはCVD-SiC 膜の成膜過程あるいはSiC 膜のパッシブ酸化過程における遊離炭素の局所的な析出が考えられ,これがSiC 膜のピンホール損傷の発生に関与している疑いがある。CVD-SiC 材は常圧の空気中では約1973K(1700℃)まで優れた耐酸化性を示したが,これはSiC の酸化物であるシリカによって発現したものである。しかしながら,シリカ膜がSiC以外のアルミナ材あるいは炭素材と接触した場合にはシリカの急激な消耗を生ずるため,耐酸化膜としての使用上限温度が約1773K(1500℃)以下に制限される。従って,可能な限り高温までSiC の耐酸化性を維持するためには,シリカの揮散損耗につながる炭素基材との接触および高温においてシリカの粘性を低下させるアルミナ等異種材との接触を極力避けなければならない。特に,CVD-SiC 膜に発生するクラック,ピンホール等の損傷を防止することがC/C 複合材の酸化耐久性を高めるうえで極めて重要となる。
- 宇宙航空研究開発機構の論文
著者
-
若松 義男
宇宙航空研究開発機構総合技術研究本部複合推進研究グループ
-
小野 文衛
宇宙航空研究開発機構総合技術研究本部角田宇宙センター複合推進研究グループ
-
植田 修一
宇宙航空研究開発機構総合技術研究本部角田宇宙センター複合推進研究グループ
-
斎藤 俊仁
宇宙航空研究開発機構 総合技術研究本部 複合推進研究グループ
-
若松 義男
宇宙航空研究開発機構 総合技術研究本部 宇宙推進技術共同センター
-
植田 修一
宇宙航空研究開発機構総合技術研究本部複合推進研究グループ
-
植田 修一
宇宙航空研究開発機構総合技術研究本部
-
小野 文衛
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
関連論文
- ロケットエンジン動的シミュレータ(REDS)
- Comparative Force/Heat Flux Measurements between JAXA Hypersonic Test Facilities Using Standard Model HB-2 : (Part 2: High Enthalpy Shock Tunnel Results)
- ターボポンプ式液酸・液水ロケットエンジンの起動過渡特性の解析
- C/C 複合材の耐酸化性向上に関する研究
- C/C 複合材用CVD-SiC 耐酸化膜の酸化消耗特性の研究
- 衝撃波干渉を伴う超音波フィルム冷却の実験(第2報)
- 衝撃波干渉を伴う超音速フィルム冷却の実験
- フィルム冷却を用いたスクラムジェットエンジンの性能計算
- 液体酸素ケロシンロケットの高周波振動燃焼(熱伝達促進について)
- 液体酵素ケロシンロケットの燃焼性能の研究(三噴流異種衝突型噴射器の特性)
- ノズル過大横推力の原因究明と対策
- ロケット-ラムジェット複合サイクルエンジン・サブスケールモデルの設計
- 飛行マッハ数6条件におけるスクラムジェットエンジンモデルの試験
- 高温衝撃風洞スクラムジェット試験技術の評価(流体工学,流体機械)
- 貯蔵性推進剤の2段燃焼サイクルに関する検討 (衛星搭載推進システム)
- 高圧液体酸素・液体水素ロケットエンジン開発上の技術的問題について(SSMEの不具合事例より検討)
- 金属製冷却配管を材料の弾性力により固定したC/C複合材冷却構造の冷却特性
- 441 パウダージェットデポジション法による酸化物系セラミックスの成膜とスプレー条件の最適化(固相微粒子による成膜技術とその応用,ものづくりにおける基礎研究と先端技術の融合)