ムハンマド・アブドゥとジョン・ウィリアム・ドレイパー

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近代イスラーム世界を代表する思想家であるムハンマド・アブドゥ(1849-1905)の『科学と文明に対するイスラームとキリスト教のかかわり』(1902)に関しては、アブドゥの思想(啓示と理性の一致、サラフの時代への回帰)が端的に表れているという重要性にもかかわらず、これまで充分な検討がなされてこなかった。そこで本書の内容を詳細に分析してみると、それがアメリカ人科学者のジョン・ウィリアム・ドレイパー(1811-1882)の『宗教と科学の闘争史』(1874)に依拠していることがわかる。本書の中でアブドゥが述べている「キリスト教の学問に対する不寛容」と「イスラームの学問に対する寛容」の例は、ほぼ全面的にドレイパーからの引用なのである。ドレイパーが『宗教と科学の闘争史』を執筆した理由は、19世紀以来の政治・思想上の困難な状況の中で、崩れゆく教会の権威を守るために「カトリック信仰に関する憲章(DeiFilius)」を公布した教皇ピウス9世に対する反発であった。「信仰を上位に置いた上での信仰と理性の一致」を謳うDeiFiliusを反動的ととらえたドレイパーは、キリスト教会の科学弾圧史、及びそれと反比例する形で、イスラームの学問に対する厚遇を叙述し、その歴史観をアブドゥが受け容れたのである。しかしながら、一方でアブドゥの思想そのものは、ピウス9世のDeiFiliusの内容と高い共通性を示している。すなわち、アブドゥは、「近代化・世俗化」(ドレイパー)から「反近代化・反世俗化」(カトリック教会)まで、幅広い意味をもつ近代西洋文明から、基準をイスラームに置いた上で、自らに必要と思われる要素を取捨選択していたのである。このようなアブドゥの主体的、かつ繊細な営為は、「西洋/イスラーム」「世俗/宗教」という単純なパースペクティブでは分析しきれない。より詳細な検討によって、「力強い意志」をもちながら近代西洋にのぞみ、近代西洋ともつれあう新たな近代イスラーム世界像をうちたてることが求められる。
2009-07-15

ムハンマド・アブドゥとジョン・ウィリアム・ドレイパー

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