『方丈記』研究の序章
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概要
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『方丈記』は随筆文学として知られているが、その評価は以外に低い。その理由は、分量の少なさ、次に内容が主観的で描写された世界が狭いと把握されているからと言えそうだ。しかし、分量の少なさが作品の価値を決めるものではなく、また主観的であるとしても、それは、かえって激動の時代、中世の知識人の苦悩を如実に示すものとして、そこに価値を見出すことができるはずである。 そこで、本稿では、『方丈記』全体の構成について明らかにすることを第一の目標とし、その結果、長明の主張を導きだすことを、さらなる目標とし、さらに、できれば『方丈記』の再評価を最終目標としたいと考えた。『方丈記』(全六章・三七段)の構成は「1、序文(世は無常)→2、不思議(世の無常の具体例)→3、人生の苦悩(一般論)→4、自己の苦悩(個別論)→5、出家1(大原)→6、出家2(日野山・方丈の家)→7、方丈の住処(内部・周辺・近辺・遠地・独夜)→8、独居の気楽さ(都との比較)→9、自己の生き方の反省→10、後記」と、10項目に分けられる。構成上のポイントは、2の「不思議」から、3、4の「人生・自己の苦悩」へと展開する部分である。展開はやや強引だが、見方を変えれば、「不思議」から、直接、「方丈の住処の安寧さ」を述べるよりも、彼の、人生における鬱々たる心の暗闇が、3の「人生の苦悩(一般論)」と4の「自己の苦悩(個別論)」により、より深化されているともいえる。5の「出家1」は世の中の「不思議(天変地異)」だけで成しえたものではないということの強い内面の噴出と見られよう。6の「出家2」により、やっと安住の家「方丈の住処」を手に入れたことを述べ、7で「方丈の住処」の内部、外部、周辺から近辺さらに遠地までをとことん賛美する。 鴨長明が『方丈記』で主張したかった点は、7の「三二」(「おほかた」で始まる段)と[三三](「それ」で始まる段)で、今の、「方丈」の清貧の住処をよしとし、独居の生活をよしとする、これが一つの主張。そして、([三三])(「おほかた」で始まる段)で、今の純粋な心をのべ、「三四」(「それ」で始まる段)で、精神の満足こそ最善であると強調する、これが最終的な主張であると推定した。
- 2009-09-15
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