42. 富士山麓地域における水文環境の諸問題
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概要
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1965年に静岡県は[富士山および岳南地域の防災上の諸問題]と題する報告書を刊行している.これは当時,静岡県が県内を地域別に自然環境と災害に関して調査した防災地学調査報告書の1分冊である。それは災害対策基本法に定められた災害の防止のための基礎資料として,地域の防災,に関する諸問題を多面的に提起している貴重な報告書であり,30年を経過した今日でも地域資料として利活用されている。静岡県における総合開発計画は1948年に計画された大井川の総合開発にその端を発するが,1950年施行の国土総合開発法に基づいて進められ,電源開発と食糧増産がおもな事業内容で,いわゆる天然自然資源開発型であった。しかし. 1960年代からは国の高度成長政策とあいまって,重化学工業を主とする産業基盤整備事業へと変化していった。そして,1961年に策定された静岡県第六次総合開発計画は,1962年に策定された国の全国総合開発計画に呼応する開発計画であり,静岡県が工業立県をめざす計画であった。さらに,1963年には東駿河湾地域が工業整備特別地域に指定された。このような時代的背景のもとにあって,富士山周辺や岳南地帯における都市化や工業化が進行した時に,予想される公害や災害に対して安全性が確保できるかどうかという課題もふくめて,上記の調査が実施されてきたといえる。また,この岳南地域一帯の防災地学的な特質のひとつは,背後の富士山に関係する自然災害の課題である。富士山の火山活動に伴う爆発の問題はともかくとして,田子の浦港に流入する潤井川の源流にあたる富士西斜面の大沢崩れの崩壊地の影響,また,土砂の運搬と堆積による港湾内の障害などがあげられている。また,駿河湾沿岸部の浮島ケ原一帯の低地はいわゆる軟弱地盤の地域であり,土地利用や水利用の進展にともなって地盤沈下やそれに関連する災害,地下水の揚水量の増大にともなう水文環境の変貌が予想されている。そして,それらに対する防災面での指摘も報告書においてなされている。ところで,その後約30年を経過した今日,そこで取り上げられた地域の安全性という課題に対して行政的に,また,地域の動きとしてどのような対策が考えられ,対処されてきたかについてふりかえる必要がある。そこで,その働きがどのような効果を発揮し,さらに,どのような新しい問題が発生して地域の課題になってきているか,などについて経緯をふまえて検証を試みた。問題領域が多岐にわたるために全地域を対象として全容を把握することは困難であるので,本文では水文環境を中心とした地域紹介をかねた記載にとどまったが,今後もこの作業を継続していきたい。
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