好蟻性植物オオバギ属を食餌植物とするムラサキツバメ属の幼生期と生態
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概要
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トウダイグサ科オオバギ属(Macaranga)のアリ植物種は,植食者に対して防衛効果をもつ種特異的なアリ種に巣場所と食物を提供することによって,そのアリと共生し,相利的な相互関係を結んでいる.そうした共生アリの対植食者防衛にもかかわらず,シジミチョウ科ムラサキツバメ属(Arhopala)の一部を構成するamphimutaグループに属する種の幼虫がアリ植物オオバギを寄主植物としていることが知られている.オオバギ属を利用するムラサキツバメ属数種のマレー半島における寄主植物選択がこれまでに明らかにされているが,幼生期における生活史の詳細は明らかにされていない.そこで本研究では,ボルネオ島の低地フタバガキ原生林において,オオバギ属を利用するムラサキツバメ属4種の幼生期の形態,行動,寄主植物選択,共生アリ,捕食寄生者を記載した.本調査地においては,3種のムラサキツバメがそれぞれ1種または互いに近縁な2種のアリ植物オオバギ属のアリ植物種を寄主植物として利用していることが確認され,Arhopala amphimutaはMacaranga trachyphyllaとM.bancanaを,A.zyldaはM.beccarianaとM.hypoleucaを,A.dajagakaはM.hoseiを,それぞれ寄主植物としていた.ボルネオにおける寄主植物選択を,Maschwitz et al.(1984)によって明らかにされているマレー半島のものと比較したところ,ボルネオにおけるオオバギ属とムラサキツバメ属の対応関係に見られる種特異性は高く,マレー半島のものと類似していた.また,今回明らかにされた各アリ植物オオバギ属の種は特定のアリ種と共生関係を結んでいることが知られており,本研究の観察でも同様な結果が得られたことから,各ムラサキツバメ種に随伴する共生アリの種特異性もおそらく高いと考えられた.一方,別のムラサキツバメ属の1種A.majorは,M.giganteaを含む互いに近縁でない2種の非アリ共生型オオバギ属を食餌植物としており,随伴するアリも不特定であったことから,本種の寄主特異性は低いものと考えられた.ムラサキツバメ属4種の幼虫や蛹の形態および色彩は,各種が摂食あるいは静止する食餌植物の部位と見事に一致させており,隠蔽色として十分働いているものと思われた.また,捕食者から隠蔽するための幼虫の静止位置は,アリ植物種と非アリ植物種を寄主とするムラサキツバメ属の間に明確な違いが見られた.ムラサキツバメ属4種の好蟻***官は,種により発達程度に違いが見られた.アリ植物種を寄主とする3種のうち,A.amphimutaとA.dajagakaは基礎的な好蟻***官のDNO(蜜腺),TOs(伸縮突起),PCOs(pore cupola organs)をすべて備え,各アリ植物の共生アリとの結びつきが強いが,A.dajagakaの方が体長は大きいためにDNOも大きく,多数のアリを随伴していた.A.zyldaはアリ植物種を寄主とするにも関わらず,DNOが消失しており,アリの随伴性はかなり低い.ただし,他の好蟻***官は機能しているためか,アリ植物の共生アリに攻撃されない事実は注目に値する.非アリ植物種を食すA majorは3つすべての好蟻***官を備えるが,DNOはあまり大きくないために分泌物の放出は少なく,不特定のアリがいくらか集う程度であった.Megens et al.(2005)によるムラサキツバメ亜族の系統樹から判断すると,amphimutaグループの共通祖先はおそらく好蟻性であり,3種類の好蟻***官を保持していたと考えられる.この祖先の一部が特殊なアリ植物種とその共生アリに適応あるいは共進化することにより,合わせて好蟻***官も変化しながら,各現生種に分化してきたものと考えられた.調査対象のムラサキツバメ属は3種の捕食寄生者によって寄生されていた.寄生蠅の1種Aplomya distinctaは対象としたムラサキツバメ全4種を利用していたが,コマユバチの1種はA.majorのみを利用しており,ヒメバチの1種Xanthopimpla pumilioはアリ植物を寄主とする3種のムラサキツバメのみに寄生することが明らかにされた.このように,今回の調査対象とした4種のオオバギ食ムラサキツバメ属では,好蟻***官を含む幼虫の形態,行動,寄生捕食者の構成が種間で著しく異なっていた.それらの種間変異は寄主となっているオオバギ上のアリが示す攻撃性の違いと強く関連しているのではないかと推測された.
- 2009-01-10
著者
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大久保 忠浩
Environment Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University
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矢後 勝也
Department of Biological Sciences, Graduate School of Science, The University of Tokyo
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市岡 孝朗
Environment Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University
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矢後 勝也
The University Museum, The University of Tokyo
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市岡 孝朗
Environment Graduate School Of Human And Environmental Studies Kyoto University
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矢後 勝也
The University Museum The University Of Tokyo
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大久保 忠浩
Environment Graduate School Of Human And Environmental Studies Kyoto University
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