日本産ナガニシ属の研究III : レクトタイプの選定を含む9種類の再検討
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概要
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このシリーズの3報目として,日本産ナガニシ属のさらなる9種類の再検討を行った。Fusinus akitai Kuroda & Habe, 1961ギボシナガニシ ナガニシ属の種類の多くは,成熟サイズにばらつきがあるが,本種も同様で,検討個体の平均は殻長116.7mm,最大個体は173.4mmに達する。日本産の同属種の中では, Fusinus ferrugineus (Kuroda & Habe, 1960)コナガニシやFusinus perplexus (A. Adams, 1864)ナガニシに近似するが,殻幅が太く,水管が短く,体層や次体層の周縁が円く縦肋がしばしば消失することや,成熟しても外唇内側が刻まれないことで区別される。分布は日本列島太平洋岸の遠州灘から土佐湾までに限られる。なお,本種は波部図鑑(保育社,続原色日本貝類図鑑)において新種記載されているが,図示されている標本は「模式標本」の計測値と合わず,ホロタイプの特定には更なる調査が必要である。Fusinus crassiplicatus Kira, 1959フトウネナガニシ 日本産ナガニシ属の中では特徴的な種類であり,成熟しても小型であること,殻が細長く,肩角の発達が弱いこと,体層でも縦肋が顕著で,殻口外唇内側が畝状に刻まれることで他種から容易に区別される。分布は相模湾から土佐湾までの日本列島太平洋側。近年ベトナムからも本種が報告されているが,詳しい記載や図がないので確認できない。Fusinus gemmuliferus Kira, 1959カゴメナガニシ 日本産の他のすべてのナガニシ類に比べて,成熟サイズが明らかに小さいこと(検討した6個体の平均殻長84.2mm),およびよく膨らんだ螺層にGranulifususアラレナガニシ属の種類に似た格子状の彫刻を持つことで区別される。本州太平洋岸の紀伊半島から土佐湾を経て九州東部までに分布。Fusinus nodosoplicatus (Dunker, 1867)コブナガニシ これまで図鑑や様々なコレクションの中で最も頻繁に誤同定されてきた種類の一つであるが,形態は比較的安定している。同所的に出現する近似種の中では,まずナガニシとは肩角が著しく強く,そこで二角の瘤状となる縦肋が体層まで顕著であること,水管が太く,成熟しても殻口内に襞ができないことで区別できる。またFusinus salisburyi Fulton, 1930イトマキナガニシとは,小型で肩が強く,縦肋が体層でも消失せず,特徴的な偽臍孔が形成されないことで容易に区別される。本種は紀伊半島以南の太平洋側と,山口県以西の日本海側,及び朝鮮半島南部を含む東シナ海に分布する。国内の図鑑でしばしば用いられるF. grabaui Kuroda & Habe, 1952は本種の異名である。Fusinus penioniformis Habe, 1970ペニオンナガニシ 日本産ナガニシ属の中では最も稀な種類で,博物館や個人コレクション中に含まれる標本は極めて少ないが,それでも日本産の近似種とは明瞭に異なる。サイズが同様であるギボシナガニシとは,殻がもっと細長く,周縁が著しく角張り,そこに先端がキール状となった縦肋が並ぶことで,また,ナガニシとは小型で周縁が明らかに角張り,成熟しても殻口内唇が刻まれないことで区別される。本種の分布は限られており,調査したすべての標本は四国の南西部,特に沖ノ島近海から得られている。 Fusinus colus (Linnaeus, 1758)ホソニシ 本種はインド・西太平洋に広く分布し,多くの形態変異を示すが,日本周辺では2型が見られる。一つは西太平洋に広く分布する模式的な型で,国内では沖縄から土佐湾西部に分布する。もう一方は, F. longicauda (Lamarck, 1801)として知られる型で,九州西岸の東シナ海から台湾,ベトナムおよびフィリピンに分布する。両型はいずれも細長く,螺層の膨らみが強く,縫合が深く,螺層上部では縦肋が顕著という特徴を共有するが,模式型は体層でも縦肋が顕著で,螺層上部が褐色を帯びる場合が多いのに対して, F. longicauda型は全体が白色で,体層では縦肋が消失することで異なる。しかし,両型はフィリピンで連続すること,および色彩や縦肋の強さは種レベルの分類の指標にならないことから,同一種内の表現型と見なすのが適当である。Fusus toreuma Deshayes, 1843はしばしば本種の異名とされるが,奥谷・土屋(2000)は別種として扱っている。しかし,図示された標本は実際にはフトウネナガニシであり, F. toreumaの実態は明らかでない。 Fusinus tuberosus (Reeve, 1847)ミクリナガニシ Fusinus nigrirostratus (E. A. smith, 1879)ツバクロナガニシ(=サガミナガニシ) ミクリナガニシ,ツバクロナガニシおよびFusinus sagamiensis Kuroda & Habe, 1971サガミナガニシの関係については,これまで見解が一定していなかった。例えば,波部(1987)はこれらを亜種とし,奥谷・土屋(2000)は同一種内の型(form)と見なしている。ミクリナガニシとツバクロナガニシは,前者が潮間帯から水深10m程度,後者が潮下帯から水深200m以深と一部垂直分布が重なる上に,形態に一定の違いが認められるため,別種とみなすのが適当である。両者の違いとして,ミクリナガニシの方が水管が短く,水管溝は殻口近くでより広く開くこと,ツバクロナガニシの方が縦肋が強く,肩では螺肋と交わり強くキール状となる反面,縦肋間の成長脈はミクリナガニシの方が粗く,螺塔上部では螺肋と交わってやや格子状となることなどが挙げられる。一方で,ツバクロナガニシとサガミナガニシは,典型的なものでは異なるように見えるが,中間型が存在し,明瞭に区別できないことから種内変異(表現型)と考えられる。なお,これらの種類は特徴的な毛状の殻皮を欠くことで,同属の他種と異なる。 Fusinus nicobaricus (Roding, 1798)チトセボラ やや形態に変異は見られるが,他のナガニシ類とは明らかに異なり,混同されることはない。本種はインド・太平洋海域に広く分布し,北は日本の紀伊半島,南はオーストラリア,東はハワイ列島,西は東アフリカまで及ぶ。Fusus laticostatus Deshayes, 1830はしばしば本種の異名とされるが,形態に一定の不連続な違いが認められ,また南インドとスリランカにのみ分布することから,別種と見られる。(編集幹事注:本文では「和名との対応は本論文の目的でないため,それぞれの種類に対して和名は吟味しない」としているが,日本の研究者の便宜を図るため,和文要旨を作成するにあたって過去の慣用に基づいて和名を充てた。)
- 2007-07-31
著者
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カロモン P.
Department of Malacology, Academy of Natural Sciences1900 Benjamin Franklin Parkway
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スナイダー M.A.
Department of Malacology, Academy of Natural Sciences
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スナイダー M.a.
Department Of Malacology Academy Of Natural Sciences
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カロモン P.
Department Of Malacology Academy Of Natural Sciences
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