新種を含む,日本産およびフィリピン産チョウセンニシ属の数種について
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概要
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チョウセンニシの同定については長らく混乱があった。まず,Kuroda&Habe(1952)は,Hirase(1907)がPtychatractus coreanicus E.A.Smith,1879として図示した標本はSmithの種類と異なるとして,新名Peristernia pilsbryi Kuroda&Habe,1952を与えた。しかし,Smithのタイプ標本やその他の標本をHirase(1907)の図と比較した結果,Inaba&Oyama(1977)などにより既に指摘されている通り,これらは同種であることが確認された。一方,Habe(1961)によってP.pilsbryiとして図示されたものは,証拠標本を調査した結果,チョウセンニシに類似した別の未記載種であることが明らかになったので,ここでハクスイツノマタFusolatirus higoi n.sp.として新種記載した。この標本のロット(NSMT-Mo73550)は5個体からなり,ハクスイナガニシ2個体,チョウセンニシ1個体に加えて,さらに別の未記載種と思われる種類2個体が入り混じっていた。この後者の未記載種は,それ以外に標本が得られなかったことと,ハクスイナガニシの形態変異である可能性も考えられることからここでは新学名を与えなかった。さらに,最近フィリピンからエゾバイ科の新種として記載されたEuthria rikae Fraussen,2003もチョウセンニシに近似した種類であり,属位を変更した上で,上記の各種類と比較した。Fusolatirus coreanicus(E.A.Smith,1879)チョウセンニシ(=Peristernia pilsbryi Kuroda&Habe,1952ヒラセツノマタモドキ)この属としては小型,10個体の殻高の平均は23.5mm。螺塔は高く,水管溝はやや短い。殻表の彫刻は太く間隔の開いた縦肋と細い螺肋からなる。螺肋は次体層で6〜7本の主螺肋とより細い間肋からなり,体層の下の縫合が付着する部分で強まる。殻口は方形で,成長した個体では内唇の滑層が発達する。Fusolatirus higoi n.sp.ハクスイツノマタ(新種・新称)成長した個体は大型で,殻高36mm以上に達し,水管溝はチョウセンニシよりも長い。螺肋は細く,縦肋は縫合まで張り出さない。殻口の内唇滑層は発達しない。タイプ産地:愛知県一色沖タイプ標本:ホロタイプNSMT-Mo73550,殻高36.1mm。Fusolatirus rikae(Fraussen,2003)貝殻の形態の大部分はチョウセンニシに著しく類似し,殻高に対する水管溝の長さの割合が大きいこと,および色彩が赤みの強い褐色であることで区別されるが,両者の分類学的な関係については今後検討が必要である。Fusolatirus sp.ハクスイツノマタと同じロットに含まれていた2個体は,サイズ,色彩や水管溝の形態などでハクスイツノマタと近似しているが,縦肋が弱く,体層では完全に消失することで異なる。しかし,今のところこれらの個体だけしか知られず,ナガニシ類の個体変異の大きさを鑑みてここでは新種記載を行わず,この属の一種とするに止める。
- 日本貝類学会の論文
- 2005-01-31
著者
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カロモン P.
Department of Malacology, Academy of Natural Sciences1900 Benjamin Franklin Parkway
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スナイダー M.
Department Of Malacology Academy Of Natural Sciences
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カロモン P.
Department Of Malacology Academy Of Natural Sciences
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