"Winter Dreams"における第1次世界大戦後のアメリカの崩壊
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概要
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本稿はF.スコット・フィッツジェラルドの短編「冬の夢」("Winter Dreams")の終末部で主人公デクスター・グリーンが襲われる喪失感をアメリカの第1次世界大戦前と戦後の文化的コンテクストで捉えようとする試みである。ヘンリーF.メイによれば、1912年にはまだ、19世紀アメリカの文化的特徴である「実用的理想主義」の名残りが見られた。これは「見えざる目標と基準を信じる理想主義者」と「困難を考慮する現実主義者」の両方を自分が併せ持つという考えであった。しかし、メイはこの「実用的理想主義」は「その根強い楽観性」のために1912年に失敗であることが露呈したと言う。これは多くのアメリカ人が表面下で「野蛮な人間性」に恐怖を感じていた所以を説明しており、デクスターがジュデイ・ジョーンズに惹かれるのはその態度を超越しているように思えるからである。ウィリアム・ジェイムズも19世紀的通念に信頼を置くことができないデクスターと同じ問題を抱えていて、その解決策として『宗教的経験の諸相』で、観念に価値を置く道徳的理想主義を主張していることを指摘し、デクスターにもその姿勢が窺えることを述べた。ジュディ・ジョーンズとの恋愛でデクスターが錯覚するのは、科学と生命の融合という新しい価値観と見えるものであるが、実はその恋愛は大衆消費社会のメタファーとして描かれている。スチュアート・イーウェンは、大衆消費社会の政治的意味を、「大量生産文化の製品と美学を受け入れるように人々を教育する」のであり、その意味で「全体主義的であり」、その社会では「組織化されるために主体としての個人は壊されなければならない」と言う。自然主義的観点で解体した個人が描かれている作品の最後は、戦後に新しく到来した産業主義機構を示唆しているが、それは戦前に既に観察できたことがデクスターとジュディの恋愛を通して描かれていることを指摘した。
著者
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