日本産ウチスズメの奇妙な威嚇行動
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
晩秋の寒い朝,夜の間に灯火に来たアケビコノハやムクゲコノハの胸部に触っても彼らは飛ぶことが出来ない.その代わり翅を開いて,逆立ちするような威嚇姿勢を取り,後翅の目玉模様を露出し,翅を小刻みに振動させる(Miyata, 2005).目玉模様を持つガは敵に出会うと,自らその模様を見せびらかすらしい.しかし気温が高い夏の朝,ムクゲコノハに触ると直ちに飛び去る.晩秋の頃と反応が違う.ウチスズメも後翅に目玉模様を持つので,威嚇姿勢を取るかどうか試した.6月の早朝,白布に止まっているウチスズメの胸部をパチンと指ではじくか,触り,反応を観察した.驚いたガは脚を突っ張り尾端や翅の先端を腹方に強く曲げる.そのまま地面に落下する個体や白布に止まったままの個体もあるが,いずれも脚を突っ張って胸部を突き出し翅を腹方に曲げる運動と,力を抜き翅が水平に近くなる運動,つまり一種の屈伸運動を反復する.その運動を初めて観察した個体は地面に落ちてそこで屈伸運動をしたもので,35秒間に6回その運動を繰り返した.また触った時,白布に止まったままの1頭は35秒間に20回屈伸運動を繰り返した.屈伸運動のリズムは受けた刺激の大きさ,屈伸運動を始めてからの経過時間によって違う.この運動は後翅にある目玉模様を一層際だたせる効果があると考えられる.同属のコウチスズメの場合は,驚くと翅を広げ後翅の目玉模様を露出する.触った後,相当長い間,少なくとも10分以上,翅を開いたままであるが,ウチスズメのような屈伸運動は見られない.また後翅の赤いモモスズメやウンモンスズメも調べたが,触ると一瞬翅を開くだけで,コウチスズメのように長い時間後翅を露出することはなかった.その他のスズメガも同様であった.ウチスズメは古くから知られている普通種なのに今回発見した威嚇行動を,今まで誰も報告していなかったのは誠に不思議である.ヨーロッパと北アフリカに分布するウチスズメの近縁種S. ocellatusでも同様の行動が見られると予想される.誰か調べて欲しい.またヒメウチスズメは九州には産せず,威嚇行動が見られるかどうか調べることが出来なかった.
- 2007-01-10
著者
関連論文
- 日本産ウチスズメの奇妙な威嚇行動
- ヒメジャノメとヒメウラナミジャノメの縄張り行動
- 日本産ヤガ科とジャノメチョウ類の翅のビーク・マーク
- ベニモントラガとツリフネソウトラガ(鱗翅目,ヤガ科,トラガ亜科) : 幼虫および成虫の出現期
- ドミニカ共和国サント・ドミンゴ市で観察したクリコゴニアシロチョウの大移動
- 4. 九州の蛾類分布調査の現状(日本鱗翅学会第28回大会一般講演要旨)
- 8. 大分県の蛾類(日本鱗翅学会第27回大会一般講演要旨)
- ヨスジアカエダシャクとオオヨスジアカエダシャクの混棲地について
- 菅平高原産クジャクチョウの黒化型
- オオツバメエダシャク奈良に産す