米国における農業教員養成の制度並びに方法
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概要
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1.アメリカ農業教員養成は全米に亘る75大学(内61は州立大学)の農業教員養成学科において行われ,毎年約1,200人以上の教員有資格者が養成されている。2.アメリカ農業教員養成学科の設置は,1907年に施行されたネルソン修正法(1890年の第二モリル法の修正)によつて開始され,1917年のスミス・ヒューズ法によつてその数を急激に増加し,1922年に至つて一応の量的完成をみた。これは各州に少くとも1つの教員養成学科のあつたことを意味するが,それ以降は質的充実に入つた如く思われる。3.米国農業教育の発展に貢献したスミス・ヒューズ法は,この教員養成にも適用され,今日この法律及びそれ以降の改正増補の法律に依つて支出される連邦及び州の資金は合計363万ドル,(約13億円以上)に及び,法律施行当初の7倍以上となつている。4.農業教員養成に直接関与する機関としては連邦政府農業教育サービス,州教育部職業教育課,州立大学農業教育学科の3者であるが,連邦政府は農業教員養成のためのプログラム・スペシャリスト(企画官)を配置し,各州間の連絡調整を計り,州政府では農業指導主事がその管理を担当し,州立大学では農業教育学科の教授陣が直接訓練に当つている。5.各州立大学においては,農業教員養成学科は農学部に所属するものが一番多く,教育学部に所属するものがこれに続いている。通常数名のスタッフからなり,「学生の教育」,「現職教員に対する新教材や新知見の提供」,「大学院,講習等による現職教員の教育」,「卒業生の現地補導」,「教員養成方法の検討」,「農業教育全般に亘る研究調査」等の任務を果している。6.農業教員養成計画の第1の特色としては農業教員たるべきものの選抜がある。この場合特に過去における農村生活と農業体験,農業高校の学歴,農業クラブ活動参加(F.F.A.)体験等が必要不可欠とされている。第2の特色は,その根本理念を農村社会のリーダーとしての実質訓練に重きをおき,専門的技術者の訓練と峻別して考えてゆくということである。この点,日本の総合農学と同様な科目設置の動向も窺われるし,その他の点でも同様な思潮がみられる。7.教育訓練の基本方針としては,「実施体験」,「参加体験」を前提また基調として,これに知識や技術の裏付けを行うということが中心となつている。これは教室授業,農学実験,教育実習等,すべてを通じて看取される。8.教室授業の方法に於いては教授側の教材,資料の準備の周到さ,学生心理的準備を重んじること,即ち動機付(Motivation)の重視等が目立つが,更にその実施に当つてはワークブックの使用,グループまたは個人課題の要求,ディスカッション,視聴覚教材の利用等が充分用いられ,教育効果が高められている。9.農業実習は通常行われていないが,非農業体験者には例外的に夏季の農家実習が課せられている。農学実験は農業全般に亘つて,平均した深さにおいて行われているが,農業及び農業技術に密接したものが過半を占め,理学的または研究を目標としたものは極めて少い。10.教育実習は極めて重視され,周到な計画及び方法が準備されている。実習校(Training Center)や実習指導教官(Supervising Teacher)の選択,実習の手順方法,評価の方法等において大いにみるべき成果があげられている。11.教科外活動(Extra-curricular Activity)としての学生の自主的クラブ活動が奨励され,より民主的指導力の養成,共同性・社会性の陶冶等,農村指導者としての資質訓練が行われている。以上の諸点を通じて確かに米国農業教員養成の制度及び方法は可成りよく整備され,効果をあげていると思われる。特に連邦,州,州立大学の組織的な協力関係,一貫した理念の下にその実現を計つて行く実行性,計画及び方法が平均した深さに於いて進歩し,且つそれが全般として高い水準に達している点,絶えず組織方法の改善が科学的実験や調査に基づいて推進されている点(毎年の農業教員養成に関する調査研究報告は数十に達している)等は,我々の大いに参考とすべき点であろう。
- 1956-03-30
著者
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