ラジオ農事番組の効果に関する研究
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概要
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近来農事放送は著しい発達をみせ,全国至る所の放送局で実施される段階に達している。筆者はその将来の発展のためと,将来予想されるテレヴィジョンの農事番組作成の基礎資料蒐集のため,まず日本の農事放送の現状を国際的水準において検討し,次いで北海道十勝における農事放送利用状況(2例)とそれに関連する2・3問題に検討を加えた。それらの内容を要約すると次の通りである。1.我国の農事放送はその出発こそ欧米一流国家に20〜30年遅れたが,その後の発達は著しく,すでに農事放送の絶対時間量においては世界最高となっている。しかしながら農民人口の全国民に対する比率や農民教育の現状からいうと必ずしも充分でなく,更に拡大される要がある。また農事放送の時間的配置について問題を残し,農民の生活と労仂時間について更にキメの細い配慮が必要と考えられるし,一方早朝の農事放送中のローカル番組の比率拡大の必要も感じられる。2.十勝農民の農事放送利用状況を帯広市八千代地区の120戸の農家に求め,前回の北川西地区(100戸)および諸外国の例と比較すれば次のような結果となる。(1)調査地区の農事放送利用は相当に顕著で,約57%の農家が技術情報入手の手段とし,1日平均4〜5種の番組を聴取している。(2)農事放送の聴取率を番組別にみると,準農事放送と考えられる「天気予報」の80%台を最大とし,「農産物市場案内」「明日の農作業」などが比較的高い50〜60%の聴取率をもち,「農業講座」「今日の農作業」「昼のいこい」などが30〜40%の聴取率をもっているが,「ラジオ農学校」が10〜20%台,その他の番組は10%以下である。このような聴取率の差を生む原因としては,第1にその番組が農民の生活と労仂に適合しているか,第2にその番組が即時的報酬が高いか,あるいは遅延報酬性が高いかどうか,第3にその番組の前後に他の魅力ある番組があるかどうか,第4にその番組が第1放送に属するか第2放送に属するかどうかなどによるものと考えられる。聴取率の大小はこれら4要素の複合的作用と思われるが,特に各番組に割当てられた時間やその番組が即時報酬性かどうかに影響されることが多い。この点農民の聴き易い時間を見出すこと,そして即時報酬性の低い番組に対しては集団的聴取や従来の通信教育に用いられる諸方法の併用を考慮する必要があろう。(3)農事放送の聴きとり方の中には定期的聴取と不定期聴取とがあるが,「定期的聴取は,全聴取番組数の増加に従って増加するに反し,不定期聴取は逆に減じる」傾向がある。これは農民に3種あり,第1段階の農民は不定期に聴取するものが多いが,少しくその価値を認めるに従って定期的聴取が増加し,第3の段階に入ると殆んど番組を定期的にきくようになることを意味しているかに感じられる。(4)農事放送と他のマス・メディヤとの結びつきは,ラジオ・新聞・雑誌を併立的に利用する場合が多く,もし欠けるとするならば雑誌がまずかけ,新聞とラジオは同程度,同種目的に利用される。三者間の量的関係は,ラジオの聴取数の増加に比例して,雑誌・新聞の購読数も増加するが,雑誌数・新聞数の増加はラジオの増加率に及ばない。一般的にいってラジオは新聞とともに,第一次的情報を与え,雑誌購読やその他の研究意欲を刺戟する役目が多いように考えられる。(5)農事牧送の聴取状況と経営主の性格との関係を,年齢,経験年数,経営規模,学歴について調べた結果,前三者の相関係数は夫々-0.021,0.11,-0.84であり,学歴との関連も極めて低い。ただし特定番組と一部要因との間に相当の関係がみられた。例えば年齢の多少と経営規模の大小により,聴取率の増加する番組と減少する番組が見出された。前回の川西地区の調査やアメリカの多くの調査でみられた学歴との関係は,今回はみられなかった。(6)技術導入の遅速とマス・メディヤの利用況況との関係は,ラジオにおいては雑誌・新聞に比して低い。しかし,それでも技術導入の遅速とラジオ聴取番組数との間には,相関係数0.407で極めて相関が高く,また聴取内容も,先進農家と後進農家の間に相当の差がみられ,特に遅延報酬性の番組においては差が大となる傾向がみられた。農家の技術導入数とマス・メディヤは,農業雑誌において大きな差がみられ,ラジオ・新聞においては顕著でない。こうしたことからラジオは導入技術数の多寡よりも,遅速に関係することがあらためて確かめられた。以上調査内容の報告は終るが,農事放送は近い将来農事テレヴィジョンに発展すると考えられるので,テレヴィジョン放送の発展の基礎づけとしてラジオ放送の研究は重要である。また,個人としての聴取効果の調査とともに,スェーデンなどに発達している組織的な聴取奨励あるいは通信教育の方法との併用などの効果の研究の必要が痛感される。
- 1962-10-10
著者
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