農業技術滲透に関する研究
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概要
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1.本研究は農業技術の農家に滲透してゆく過程,並びにその底に流れる法則的なものを見出すべく,昭和30年,31年の両年にわたって北海道帯広市川西町(当時川西村)において実施された。2.農家100戸に対し,中学生を通じて調査表を配布し,経営主に記入を求めた。回収率は90%であった。3.調査対象の農家はほとんどが,農業を専業とする自作農であり,経営農用地面積は平均14町(耕地では10.7町歩)である。作付作物は豆類を主とし,これに麦類,根菜類等を加えている。飼養する家畜は馬が平均2頭,緬羊2.7頭,鶏37羽であり,このほか乳牛を飼養する農家が35%あり,その一戸当り平均頭数は2.7頭であった。農業所得は最高64.9万円,最低3.3万円,平均26.5万円であった。但し,これは凶作の異常な条件下のものである。経営主の年令は平均45才で,40才代が過半を占め,50才代,30才代が残余を折半している。農業経験年数は平均24.5年,経営主の学歴は小学校卒が58%,高等小学校卒が35%,中学校卒が10%を占めていた。4.北海道庁では過去10年間に奨励し,且つこの地区で奨励の対象となった新技術(生活技術若干をも含む)30種について,その滲透状況を調べてみると次のような結果をえた。(1)技術の滲透速度には相互間に非常な差があり,僅か数年にして80%に達するもの(BHC等)もあるが,一方20年余にして僅か20%に達するもの(例えば,乳牛導入,堆肥場設置)などがあった。(2)技術導入率は傾斜したS字型のカーブを描いて増加するが,もし何等かの理由で導入が困難な場合は,そのカーブは次第に横に伏し,直線的になる。これは愛知県神戸村におけるカルチベーターの導入,米国ヴィスコンシン州ソーク郡におけるアルファルファ・ブロームグラスの混播法の導入の際みられた傾向と全く同一であった。(3)技術導入を左右する要因としては,第一に技術のもつ特性(簡単・複雑,難易,資本要求の多寡等),第二に農民の性格(理解力,危険をおかす積極的態度,技術導入に伴う諸影響の調整能力等),第三に指導の強弱(重点のおかれ方,指導期間の長短,指導員の能力等)の三要因で,いわば技術導入率はこの三要因と相関関係にあるといえる。(4)技術導入を段階別にみると,大体4種のタイプが考えられ,この段階を早く知ることは普及の重点を決定する上に重要なものとなることを知った。5.技術導入に用いられたメディヤに関しては以下の結果がえられた。(1).技術導入に用いられたメディヤ数は一戸当り平均8.2個であり,そのうち改良普及員を利用する率が最高で88%,ラジオ58%,近隣の農家51%,講習会50%,農業雑誌45%等がこれにつづいている。(2)使用されるメディヤをその性格より三つのグループに分け,他農家,農業指導機関,マス・メディヤとし,その内部百分率を求めると,農業指導機関がその過半を占め(54%),マス・メディヤが26%,他農家が20%を占めていた。これを米国のヴィスコンシン,ミネソタの調査例と比較すると,米国ではマス・メディヤが最高率を占め,日本と顕著な差を示した。またマス・メディヤの利用法でも,日本ではラジオが中心であるのに対し,アメリカでは農業雑誌が主体であるという相異がみられた。(3)特にマス・メディヤの利用状況を調べてみると,北海道内の二新聞が50%前後を占め,地元十勝の新聞と東京で発行される中央新聞はごく僅かであった。農家の一戸当り購読紙数は1紙以上を読むものが97%,2紙以上読むものが20%あり,4紙,5紙に及ぶものもあった。農事放送の聴取状況は,必ず聴く番組としては短時間のものが高率で,長時間の講座ふうのものは低率である。時折り聴く番組としては,この関係が逆となった。一戸当り聴取番組数は平均4.5種で,14種の番組のうち,11種を聴取する農家もあった。農業雑誌の購読は「家の光」を最高として「ディリーマン」,「農業北海道」等の順であった。一戸当り購読雑誌数は約64%の農家が1誌以上を読んでおり,5誌に及ぶものも3戸あった。6.農業技術導入の遅速と農家の性格とは以下に述べる如く関係があった。(1)一般的にいうと農業技術導入の早い農家は遅い農家に比して利用するメディヤの種類も多いが,特に農業指導機関,マス・メディヤの利用率においてまさる。他農家の利用率においてもまさるが,農業指導機関,マス・メディヤの利用率にみられるほど著しくはない。(2)農業技術導入の早い農家は,遅い農家に比して,著しく農業雑誌購読数及び農事放送聴取番組数が多い。また技術導入の早い農家は,或る特定の農業雑誌の購読率が高い傾向もある。(3)また技術導入の遅速と反当り農業所得及び農用地面積とは相当の関連,学歴及び耕地面積とは多少の関連がみられたが,農業経験年数及び経営主の年令とは全く関連がみられなかった。7.農業技術の導入数と農家の性格とは次の如き関係が見出された。(1)農業技術導入数は学歴との関連が一番強く,学歴が高いほど技術導入数が多い。(2)年令及びメディヤ利用数との関係も相当あり,年令が若いほど,またメディヤ利用数の多いほど,技術導入数も多い。(3)マス・メディヤの利用数,農用地面積,反当り所得,農業経験年数も夫々多少ずつ関係があるが,その程度は深くない。8.メディヤ利用と農家の性格について検討してみると,学歴との関係が一番明らかで,次に年令が或る程度関係があり,農用地面積,耕地面積,農業経験年数等では関係がほとんどみられなかった。9.以上の調査結果に基き将来の問題を述べると次の如くである。(1)普及の評価は定期的且つ具体的に行われ,それに基いた計画,指導がなされねばならない。特に技術滲透の遅れた技術については,その原因の追求が先ず精密に行われる必要がある。(2)各普及手段の農民に対する心理的影響の特性を把握する必要があり,それと共に現在の使用法の改善がなされねばならない。特にラジオ,雑誌等のマス・メディヤにおいては,このことを多く感じる。(3)技術導入の早い農家,多い農家の分折が更に周到に行われ,最も効率的な技術普及のルートを見出す必要がある。特に今回においては農家の性格を個々にとらえているが,集団としての農家の性格をも把握する必要がある。
- 1959-06-30
著者
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