大学生の「孤独感」と「アイデンティティ」の研究 : 映画鑑賞と関連づけて
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概要
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大学生の孤独感とアイデンティティについて検討することが本研究の主要な目的である.さらに,本研究は,映画鑑賞のあり方と人格の関係についても検討する.154名の大学生に,思春期・青年期における「アイデンティティ」の問題が現れているとの解釈が可能な映画を鑑賞させた.直後に映画鑑賞のあり方を評定する質問紙と「好ましい」登場人物等を問う課題,「孤独感」,「アイデンティティ」及び「コーピング」を査定する質問紙を実施した.因子分析,項目分析による尺度の検討を行った.SD法(semantic differential : 意味微分法)による映画の評定尺度は,「醜悪さ」,「高尚さ」,「男らしさ」の3つの下位尺度で構成した.「孤独感」尺度は,「人間同士の理解・共感の可能性(への信頼・期待)」,「自己の個別性の自覚」に「孤立感」を加えた3つの下位尺度を有することが示されたが,前2者を「孤独感」尺度とした.先行研究において,信頼性と妥当性の再検討が求められていた「自己の個別性の自覚」は,「アイデンティの確立」,「積極型」との正の相関を示し,満足すべき妥当性を備えていることが示された.困難な状況における対処のあり方を査定する「コーピング」尺度は,「積極型」と「回避・逃避型」の2尺度で構成した.「孤独感」尺度の2つの下位尺度の得点の高低の組合せにより被検者を4群に類型化したところ,発達的に最も進んでいると仮定される被検者群(「自己の個別性の自覚」と「人間同士の理解・共感の可能性(への信頼・期待)」の両尺度の得点が高い)が,発達的に最も低いと想定される被検者群より,「アイデンティティの確立」,「積極型」及び「高尚さ」の得点平均が有意に高かった.他の尺度における類型間の得点比較の結果も,「孤独感」尺度の,個人の発達を査定する尺度としての有効性を支持するものであった.映画の「好ましい」登場人物を問う課題において,自己実現を目指して非順応的な生き方を選び「危機」と「積極的関与」を経験しているとの解釈が可能な人物,または「アイデンティティ」を確立したとの解釈が可能な人物を選択した被検者群は,順応主義的な意欲に乏しい人物選択した被検者群より,「アイデンティティの確立」,「自己の個別性の自覚」,「積極型」「高尚さ」及び「男らしさ」の5尺度において得点平均が有意に高く,「醜悪さ」の得点平均が有意に低かった.以上の結果から,信頼性,妥当性の再検討が求められていた「自己の個別性の自覚」尺度は,項目の追加・変更が施された結果,信頼生の点では依然十分とはいえないが,妥当性については,質問紙法と映画鑑賞のあり方を査定する投影法的な方法のいずれによっても,これを備えていることが保証されるとともに,「孤独感」の一つの要因としての「自己の個別性の自覚」と「アイデンティティ」との相補性が示された.
- 2007-03-31
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