線虫C. elegans を用いた宇宙環境におけるRNAi とタンパク質リン酸化(平成17年度ISS科学プロジェクト室細胞生物研究プロジェクト研究開発報告)
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概要
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本研究では,モデル生物の一つである線虫C. elegans を用いて,微小重力や宇宙放射線をはじめとする複合的な宇宙環境ストレスが生物に及ぼす影響について調べることを目的としている.(1)我々はこれまでに,国際宇宙線虫実験ICE-first(2004 年4 月フライト)に参画し,宇宙で成長した線虫においても地上の対照区と同様に,減数分裂チェックポイント制御下のアポトーシスならびに卵母細胞成熟に伴う発生制御下のアポトーシスがともに正常に行われること,(2)筋肉関連の幾つかの遺伝子群ならびにタンパク質が発現レベルで顕著に低下することを見出してきた.(3)また,過重力による影響は受精直後の卵核の減数第1 ・第2 分裂に最も影響を及ぼすことを証明してきた.(4)さらに,様々な環境ストレス(放射線など)の生物影響について,各種突然変異体やRNA 干渉法(RNA interferece: RNAi)による特異的な遺伝子発現の抑制体とDNAマイクロアレイを用いることにより,ゲノムワイドな分子モニターができることを明らかにしてきた.これらの結果から,複合的な宇宙環境ストレスが個体レベルに及ぼす分子影響を解析する上で,モデル生物の線虫が大変有効であることが示唆された.今後は,第一に宇宙環境におけるRNA 干渉機構(RNAi)の効果を検証し,RNAi によりDNA 損傷のチェックポイント制御を抑制した場合における細胞内での諸変化について調べる.さらに,アクチンや細胞骨格の再構築を介し,重力感受にも関わる可能性が想定されるRho-guaninenucleotide exchange factor(RhoGEF)の一変異体であるunc-73 と野生株N 2との遺伝子およびタンパク質発現の変化を比較し,シグナル伝達を含めたタンパク質のリン酸化に対する宇宙環境の影響について明らかにしたい.また,宇宙環境下で長期間,連続的な世代交代を通して生じる適応と変異・進化の方向性について明らかにすることを次なる研究課題として位置づけている.
- 宇宙航空研究開発機構の論文
著者
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石岡 憲昭
JAXA
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東谷 篤志
Iss 科学プロジェクト室細胞生物研究プロジェクトチーム
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石岡 憲昭
宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部 宇宙環境利用科学研究系ライフサイエンス
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石岡 憲昭
Iss 科学プロジェクト室細胞生物研究プロジェクトチーム
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東端 晃
JAXA
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東谷 篤志
Tohoku University, Graduate School of Life Sciences
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東端 晃
宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部 宇宙環境利用科学研究系ライフサイエンス
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