イラク戦争開戦直前期における日米両国のメディアの内容分析
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概要
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本研究は、日米の比較政治コミュニケーションのケーススタディーであり、イラク戦争の開戦直前期(2002年10月1日から2003年3月19日)の約6カ月間について、日米双方の代表的なメディアである『朝日新聞』と『ニューヨーク・タイムズ』のイラク情勢や開戦の可能性に関する記事の内容分析を行うものである。具体的には、両紙掲載の記事のうち、イラク戦争を扱った、あるいは関連した記事の全て(『朝日新聞』990記事、『ニューヨーク・タイムズ』1242記事)について、量的な内容分析を行った上で、イラク情勢をめぐる両国のニュース報道の内容が、特定の筋書きを持っていることに着眼し、質的な内容分析を行い、その相違点を包括的に分析した。内容分析の結果、次の5点において、両紙の違いが明確となった。5点とは、(1)アメリカのイラク政策、(2)戦争に対する切迫感、(3)イラク情勢における国連の役割、(4)一般市民の犠牲とその可能性、(5)ニュース・ソースーである。この中でも両紙の間で、大きく差が出たのが、「アメリカのイラク政策」についてであり、『ニューヨーク・タイムズ』の場合、『朝日新聞』に比べて、「アメリカのイラク政策」の記述が量的にも多かったほか、質的に分析しても、政府の対応や、今後の戦略や戦争への準備など、内容も非常に具体的であり、国連核査察に対するフセイン政権の対応の遅れのため、「戦争やむなし」という論調や記述が目立っていた。これに対し、『朝日新聞』の場合は戦争を急ぐブッシュ政権に批判的な論調や記述が主流だった。また、戦争に対する切迫感は、『朝日新聞』が「戦争は選択肢の一つでしかない」といった内容の論調や記述が目立つ一方で、『ニューヨーク・タイムズ』の場合、戦争は「"あるかないが"ではなく、"いつか"」といった切迫した視点からの報道が主であった。さらに、イラク情勢における国連の役割については、『朝日新聞』の方が国連に言及した記事が占める割合が多かったほか、国連の役割自身についても肯定的であり、「世界の運命を決める」国連の有効性が強調されていた。これに対して、『ニューヨーク・タイムズ』の場合、国連の役割に懐疑的であり、イラク査察は効果的でなく、フセイン政権の大量破壊兵器開発をとめるのに十分でないことを指摘した記事が目立っていた。また、一般市民の犠牲とその可能性についても、両紙の扱いは異なっており、『朝日新聞』より、『ニューヨーク・タイムズ』の方が記述そのものの割合が少なかった。ニュース・ソースについても、大きく異なっており、『朝日新聞』は、公式の記者会見をソースにした報道が中心だったが、『ニューヨーク・タイムズ』の場合、政権担当者、議会関係者などからの直接取材が多かった。このように、両紙の「メディア・フレーム」は大きく異なっており、同じイラク情勢を取り扱っていても、記事上では大きく異なった内容が報じられていた。
- 敬和学園大学の論文
- 2006-02-28
著者
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