トックビルの民主主義理論と「武士道」
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1830年代にアメリカを訪れたアレクシス・ド・トックビルは、当時、アナーキズムに近いものだと信じられていた民主主義がアメリカでは崩壊せずに政治システムとして機能していることに着目した。政治システムを支えていた要因として、トックビルが注目したのが宗教であった。宗教的な道徳規範が社会的秩序を守り、市民による地域ネットワークを補完する形で、民主主義的政体が「多数派の暴政」に陥ってしまうのを防ぐ「セーフティ・ネット」として宗教が機能しているとトックビルは分析している。トックビルの『アメリカにおける民主政治』は日本でも民主政治を考察する教科書的な存在であり、政治的リーダーの間で広く読まれてきた。その中でも、新渡戸稲造はトックビルの視点を発展させ、民主主義を支えているアメリカの宗教に相当する存在を日本社会の中で模索した。その結果、たどり着いたのが、倫理的規範である武士道である。新渡戸によれば、武士道は西洋の騎士道に似たものだが、儒教、仏教、神道という日本の伝統を総合したユニークな概念であるという。そして、義理や情け、礼儀など様々な倫理的な特徴はキリスト教倫理に相通ずると新渡戸は主張している。英語で出版されたこともあって、1899年に出版された新渡戸の「武士道」はアメリカでも広く読まれ、セオドア・ルーズベルト大統領をはじめ、エリート層の中にも新渡戸の視点を賞賛する声も少なくなかった。それとともに、「太平洋の架け橋」として日本文化をアメリカの紹介する新渡戸に対する次第に評価も高まっていった。しかし、その後、日本の軍事的な野心が高まっていく中、「武士道」は好戦的な日本の異質な伝統としてみなされるようになった。このようにして、アメリカにおけるキリスト教と同等のものであり、日本の民主主義の基盤として説明しようとした新渡戸の意図とは反し、アメリカでは「武士道」は日本の軍国主義のプロパガンダとして曲解され、戦後は忘れ去られた存在となってしまった。
- 敬和学園大学の論文
著者
関連論文
- アジア系アメリカ人の政治参加と代議制の現状 : 「政治的逆接」を超えて(延原時行教授・北嶋藤郷教授・Allan Blonde教授退任記念号)
- 「悪」の社会構築 : イラク戦争についての日米のメディアの比較分析
- イラク戦争開戦直前期における日米両国のメディアの内容分析
- アメリカの選挙スポットの効果と問題点
- トックビルの民主主義理論と「武士道」
- 米国のHDTV技術開発・導入政策 : 日欧との比較を中心として(第二部)
- 「アメリカ政治の主役」としてのマスメディア : 現状と新たな変化
- Comparative Content Analysis between the US and Japanese Media during the Run-up Period of the Iraq War
- 米国のHDTV技術開発・導入政策 : 日欧との比較を中心として(第二部)