馬のHabronema症に関する研究
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概要
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(1)臨床並びに病理組織学的研究鹿児島県姶良郡敷根種畜場の放牧育成馬に毎年初夏より晩秋にかけて発生する特殊の結膜炎並びに皮膚炎を研究しこれが結膜及び皮膚Habronema症に該当することを認めた.すなわち放牧馬の眼漏や皮膚炎病巣の黄色顆粒内にしばしばRANSOMのいわゆるHabronema muscaeの第6期幼虫に該当するものを検出した.また内眼角直下の皮膚炎の病理組織学的検索を行つたがその組織像の大要は次の如くである.すなわち皮膚の主要な変化は周囲組織と限界明瞭ないわゆる黄色顆粒たる壊死組織がありこの中にしばしばHabronema幼虫の各種の断面が認められた.また該壊死組織の周囲は各種発育階程の肉芽組織であり酸好性白血球の浸潤が著明である.その後南九州地区(15例), 中部九州地区(2例), 北九州地区(5例), 広島県(3例), 東京都(2例), 八重山群島(2例)計29個の顆粒性皮膚炎類似病巣材料について病理組織学的検索を実施した.その結果は九州管内及び八重山群島の材料は凡ておおむね放牧馬と同様の組織像を示しHabronema性と認められた.広島県及び東京都の材料には未だいずれも寄生虫体を検出しないが依然として寄生虫性の組織像を現わした.なお東京都の材料には特に真皮内に形質細胞の浸潤が著明で炎症は慢性で幾分か陳旧な肉芽組織像を示した.現今臨床的に欧州の顆粒性皮膚炎に類似する馬の疾患の病因については主として寄生虫説と糸状菌説が唱えられているが著者が検索した材料には糸状菌は認められず上記の如くいずれも寄生虫性の組織像を示したので本症の糸状菌説に疑いを懐くものである.(2)Habronema幼虫の形態学的観察Habronema muscae幼虫の形態はRANSOMの研究によつて明かにされたがほか2種の幼虫(Habronema microstoma幼虫及びHabronema megastoma幼虫)の形態は不詳であつた.よつて著者は独自の方法によりこれら幼虫個々の人工発育分離を行いその形態を明かにし幼虫はそれぞれその成虫の特徴を具備することを認めた.すなわち3種Habronema属線虫の卵子乃至孵化仔虫を牛糞中に発育中のハエの蛆に各別に感染させその後羽化したハエを検査しその保有幼虫の形態を比較検討した.その結果はHabronema muscaeの幼虫とHabronema microstomaの幼虫では主として後者の尾部が極めて豊円な点で区別され一方Habronema megastomaの幼虫はその漏斗状の口腔と頭部の縊れによつて前二者の幼虫と鑑別が出来た.しかしてHabronema muscaeの幼虫の形態を具えるものが自然感染例においてイエバエの頭部に最も多く検出される事実, またイエバエの発生多き年にはHabronema症が特に激症を呈すること及び敷根種畜場にはイエバエの類が圧倒的に多数発生する事実に鑑み少くとも鹿児島地方における本症の病原としてはHabronema muscaeの幼虫が大きな役割を演ずるものと考えられた.(3)馬胃内の大口胃虫による結節について大口胃虫結節15例について肉眼的観察を行い, その中炎症の初期のものより陳旧なものに及ぶ代表例7例について病理組織学的検索を行つた.結節は殆ど胃の大彎に沿い襞状縁附近に発生, 小なるは径1cm, 大なるは径8×6cmに達し正常粘膜面よりの隆起が4cmにも及ぶものがある.結節の頂点には小孔開口し黄緑膿汁と共に大口胃虫が認められる.結節の断面を観察するに粘膜下織が大いに肥厚しその中に大小不同, 各種形状の空洞が存在しこの中に石花菜様物質と共に大口胃虫が無数に寄生している.結節の中にはその形状が皮膚炎の形状に酷似するものがある.病理組織学的には粘膜面の軽度の破壊を示すものが多く著明な所見は粘膜下織の大増殖でありこの部における酸好性白血球の著明な浸潤は概して初期結節にのみ認められ陳旧結節はリンパ球と形質細胞の著しい浸潤を特徴としている.また虫体の胃壁内侵入経路として正常胃粘膜には認められぬ襞状縁部の裂隙を観察することが出来た.(4)Habronema症の人工感染試験本症の病原決定の断案を下すために自然発生のHabronema幼虫及び人工的に発育分離した3種のHabronema幼虫各単独による人工感染試験を三次に亘つて行いそれぞれその臨床所見乃至は病理組織所見を通じてこれが感染を確認すると共に特に皮膚Habronema症の感染経路について重要な所見を認めることが出来た.第1次Habronema症人工感染試験鹿児島県姶良郡敷根村において2頭の馬に対し自然発生のハエの頭部より生理食塩水中に採集したHabronema幼虫を用いてそれぞれ人工皮膚感染及び人工結膜感染を行つた.すなわち1頭に対しては左内眼角直下, 左前球節外側及び左前管外側の3カ所を他の1頭に対しては左眼結膜を感染術野とした.皮膚感染はあらかじめ術野を剃毛し円刃をもつてこれに擦傷を加え軽く出血する程度としこの創面に1隻宛幼虫を移す方法によつた.また結膜感染には主として内眼角部下眼瞼結膜の深部に幼虫を移植した.感染試験結果は臨床的にも病理組織学的にもいずれも陽性と認められた.すなわち臨床所見として皮
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