教員養成系大学生の身近な自然観とそれに応じた自然教育
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概要
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教員養成系大学生の身近な自然観を把握するため、信州大学教育学部(長野県長野市)の学生284名を対象にアンケートを実施した。アンケートでは幼少期の生活環境と、当学部の「自然数育実習」で扱われている題材のうち日本の伝統植物や代表的樹木に対する認識を探ることに焦点を当てた。その結果、多くの学生の幼少期の生活環境は、農村部のような自然が身近にある場所であったり、お年寄りとの接触が少なくない環境であったりした。ここで、お年寄りとの接触頻度は住宅地よりも農村部で高いことが示された。なかでも、農村部に暮らし、お年寄りとの接触も多かった学生ほど、自然遊びや伝統的外遊びをしていた割合が高く、日本の伝統植物である「春の七草」の正答率も比較的高かった。このことから、幼少期の生活環境が伝統植物への認識に、ある程度影響を及ぼしている可能性が示唆された。一方で、「秋の七草」や「ススキの利用法」への認識は低く、その要因として、人の生活様式の変化に伴う伝統植物の利用放棄や生育適地の衰退が、世代間の伝承の停滞を導いた可能性がある。日本の代表的樹種に多く挙がったのは、サクラ、マツ、スギ、ヒノキで、その傾向に幼少期の生活環境との関連性は認められなかった。また、長野県の代表的樹種の首位に挙がったシラカバの占める割合は、長野県出身者が県外出身者を大きく上回っていた。これらの樹木は一般的に比較的身近な存在ではあるが、サクラを除けば、それら樹木への認識の多くは、日常生活との関わりというよりも、むしろ、現在までに得られた知識やイメージの集約により形成されたものと考えられた。以上から、将来の学校教員としての役割を踏まえると、教員養成系大学における自然教育では、こうした学生の実状に合わせた授業の展開が必要だろう。例えば、漠然と捉えている自然を、より身近にかつ具体的に捉えられるよう、導入には、自然に関わる地域の風習、文化、季節の行事など身近な題材を用い、そこに生態学的な視点を盛り込むことで、身近な自然と人の関わりを理解することから始めると効果的であると考える。
- 2006-12-05
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