『IT業界標準-国際ビジネスの技術戦略-』, 文眞堂(2005年2月刊)ハードカバー, A5版, 218頁
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本書は近年の業界標準の全容を明らかにするために先行研究とコンソーシアムなどの実態調査を含めて著している。業界標準とは「産業界(industry)のステークホルダー(利害関係者)によって恣意的に形成され,業界で共通に通用するドミナント(支配的)技術規格」である。業界標準はいわゆるデファクト標準,デジュリ標準を包含するドミナントな標準全般を言う。本書で言う業界標準の範囲は,情報技術(Information Technology:以下ITと表記)の任意規格に限定しており,強制規格は除外している。その範囲はIT製品・サービスに関連するハードウェア,ソフトウェア,ミドルウェアなどである。産業界において,業界標準は技術と市場を結びつける重要な機能を果たしている。さらに業界標準は業界の枠組みを越えて,現在では社会基盤を構築する巨大システム技術を構成する場合もある。例えばITS(Intelligent Transport Systems:高度道路システム)に見られるフォーマルとインフォーマルな標準化活動がある。こうした標準化の動向は近年特定業界例えばIT関連業界に顕著に現れている。標準化活動は,1990年以降に産業界の多国籍企業を主体する「コンソーシアム」として出現している。これにより多国籍企業は戦略提携によって国際標準を構築しようとしている。筆者は多国籍企業が「競争」と「協調」という戦略提携を通じて「新しい経営パラダイム」すなわち「標準化の経済パラダイム」を求めているのではないかという問題意識を持っている。これまでに「コンソーシアム」はフォーマル標準(公的機関が発効する標準),インフォーマル標準(私的企業が形成する標準)を問わず標準化に密接に関わっていることが指摘されている。筆者は両標準化が複合的に展開する現象について,グローバルなビジネス展開とITの発達・普及が影響して変化をもたらしているのではないかという着想を持っている。本書ではIT業界標準の標準化プロセスに着目し,つぎのように類型化して論じている。業界標準としてのドミナント標準は,形成のプロセスから「フォーマル標準化(formal standardization)」と「インフォーマル標準化(informal standardization)」に分けられる。(1)フォーマル標準化-公式標準化機関が発効(effect)する任意標準の標準化プロセスである(2)インフォーマル標準化-企業などの私的組織・団体などが進める標準化である。この中には市場競争の結果ドミナント標準となる場合(いわゆるデファクト標準)とコンソーシアムなどが標準化プロセスに関与する場合などがある近年では(1)の標準化プロセスにコンソーシアムなどのインフォーマル組織が関与することがある。また「オープン(ステークホルダーの参加が自由)」「コンセンサス(メンバーの審議による合意形成)」に基づいたプロセス方式が一般的となり,(1)はもとより,(2)の標準化プロセスの一部にも導人されている。これとは異なり,(2)の市場競争に勝ち残った結果形成されるドミナント標準は「オープン」・「コンセンサス」形成方式とは全く異なる標準化プロセスである。
- 2005-03-31
著者
関連論文
- 『IT業界標準-国際ビジネスの技術戦略-』, 文眞堂(2005年2月刊)ハードカバー, A5版, 218頁
- ICTの技術標準化 : オープン・システムと競争市場(流通・マーケティング領域)
- 「標準」と「知財」のビジネスモデル : AIDC企業事例を中心に
- 2K20 バーコードの標準化 : QRコードを中心に((ホットイシュー) 国際的技術標準戦略と研究開発 (4), 第20回年次学術大会講演要旨集II)
- ITと国際標準化 : デンソーのQRコード(2次元コード)のケースを中心として
- 技術と市場のイノベーション普及戦略 : (その2)日米のバーコードの普及イノベーション
- 流通小売業の変化と動向 : ショッピングセンターを中心に
- 流通小売業における「社会性」について : 環境報告書からCSR報告書への進化を踏まえて
- 技術と市場のイノベーション普及戦略 : AIDCとくにバーコードを中心として : (その1)イノベーション普及と収益化の研究アプローチ
- グループによるICT標準化 : 理論と実態に関する考察
- 国際ビジネスの技術開発におけるオープン化
- 2C14 自動認識技術における標準化の戦略 : バーコード・RFID・バイオメトリクスを中心に(標準化 (2))
- ICT標準化の新展開 : オープンシステムとコンソーシアム
- 国際マーケティングと社会・文化的環境 : インファント・ミルクのデジュリ・スタンダード制定を事例として