わが国競技者の価値意識に関する調査研究
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概要
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行為体系理論の立場から設定された4種の価値,スポーツ体系構成要因間の投入産出の相互交換,及びR.ベネディクトの文化型にみられる日本的特性を手掛りにした調査の結果,わが国競技者(陸上競技,野球,剣道)の価値意識について次の事実が明らかになった。1.全体的な傾向についてみれば,スポーツ,チーム,試合,練習に関する価値については業績価値,献身価値が多く選ばれた。これは競技スポーツの特性とよく合致している。指導者の資質,年長者-年少者の関係についてみれば,献身価値,和合価値等の個別主義的価値への志向が多くみられたが,これはベラーの指摘する日本文化の伝統的特性と対応するものである。2.世代間の差についてみれば,スポーツ,チームに関してはOB,現役とも業績価値,献身価値という成就本位の価値に志向する者が多いが,OBは現役よりも和合価値を,現役はOBよりも充足価値を選ぶ者が多い。集団を構成する人間関係についてみれば,年長者-年少者という先天的属性のみにかかわる上下関係では双方とも和合価値を志向し,指導者-競技者という機能的上下関係に関してはOBは現役よりも厳しい献身価値を,現役はOBよりも暖かい和合価値や,自由な充足価値をより多く志向する。これはOB,現役が競技者としておかれた社会的文化的背景の差,また監督経験の有無の差によるものであろう。3.種目間の差についてみれば,陸上競技は合理的な業績価値を,野球はスポーツに対しては和合価値を,チームや連帯,指導者に関しては克服価値を他種目より多く選ぶ。これは個人の記録の客観比較である陸上競技と,監督による統制の強いチーム競技である野球との間のスポーツ文化としての特質の差によるものであろう。剣道は人間関係に関する項目では和合価値を選ぷ者が他の2種目より多いが,この点に限ってみれば個別主義性質本位という日本文化の特徴の一つと対応する。しかし,これ以外の項問では,和合価値以外の諸価値へと志向が分散しており,結果として価値の4類型間のバランスが最もよくとれたものとなっている。これに関しては,伝統的価値への反作用,抽象化と昇華による価値意識の意味拡大などの解釈が可能であろうが,これは今後の課題である。4.各種目の価値意識を世代間で比較すると,陸上競技が最もOB,現役間の差が少ない。これは陸上競技それ自体の客観的,合理的性格から,競技の型や競技のおかれる状況が世代をこえて比較的安定していることによるものであろう。野球では価値意識の世代間の差は,他の2種目と比較して最も大きい。これは野球の現代社会での急速な普及と,それにともなう大衆化,世俗化によるという解釈が可能であろう。剣道にもOBと現役間に若干の差がみられ,特に目立つのはチームの目標決定について,全員の希望の最大充足のために全員で決定することを(充足価値)を現役の大多数が望ましいとしていることである。5.スポーツ体系の構成要因である練習,試合,連帯,楽しさ間の投入産出の相互交換についてみれば,全体では練習-試合間の相互交換量が多く,練習と試合への他の要件からの投入が多かった。これは競技スポーツの特性からみて当然のことであろう。世代間の比較においては,OBでは連帯と練習への投入量が現役より多く,現役では試合と楽しさへの投入量がOBより多かった。これは連帯と練習の揚でのOBの「自己統制」と,試合やインフォーマルな楽しみの場での現役の「自己解放」「自己表現」という態度の差として理解できよう。種目別にみると,陸上競技は他の2種目に比較して試合と練習,特に練習への他要件からの投入量の比率が高く,連帯の比率が低い,また野球は他種目と比較して連帯の比率が高く,楽しさの比率が小さい。これは個人の運動能力の客観比較という陸上競技と,チームスポーツである野球との特質の差をよく表わしている。剣道は他の2種目と比較して,試合の比率が小さく,楽しさの比率が大きいということ,またそのことによって,4要件間の比率のバランスが最もよいものとなっている。これは先にみた4種の価値への志向のバランスのよさと対応している。以上の作業を通してスポーツに関する価値意識の分布様態と,スポーツ体系における投入産出のパタンとの間に蓋然的な対応関係があることが明らかになった。6.競技者の価値意識にみられる日本的特性を明らかにするため,ベネディクトの日本文化の型の特性をスポーツ場面に援用し調査したところ,OBが現役よりも多くの日本的価値意識をもつことが明らかとなった。種目別では陸上競技が最も日本的な型から遠く,剣道が最も日本的な価値意識の型に近いことが明らかとなった。この分析を通して,マクロな普遍文化とその下位体系としての特殊文化,任意文化であるスポーツとの対応関係,及びスポーツの場における文化,集団,個人の意識の3者を総合的に理解するための一つの手掛りを得ることができた。
- 1982-12-20
著者
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