教育工学的視点とその問題点

概要

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教育工学的視点とその問題点を論じた。1.教育工学というのは,教育目標を設定するとかいう,教育的価値観のともなうものをその研究分野にふくまない。しかしこれまでの教育においては,つねに価値観をともなう教育論争が尊重されてきたし,現在もそうである。2.教育工学的視点の根底には,行動科学的人間観がある。この考えに立てば,教授過程での教師と児童・生徒の行動と交互作用も充分に分析された後には,予測と制御が可能であると考えられるが,これは「教育」を「芸術」とみなす多くの教育関係者には受け入れられない。3.このような行動科学的人間観に立った場合,「なにが出来るようになったか,というオバートな行動の変化」が「学習」であって,教授の目標は「学習者の行動」すなわち目標行動の形であらわす必要がある。しかし「学習」をオバートな行動のレベルでだけで考えでよいであろうか。4.教育工学においては,人,もの,金,情報をうまく組み合わせて,教育効果を上げようとするのだが,このように,人はものや金とならぶ一要因でしかない。教師対児童,児童対児童の真剣な格闘の中から新鮮な授業が創造される,とするような「人」に非常に重点をおいて考える人達からは,この点から教育工学は拒絶される。5.教育のシステム化というとき,そのシステムの優劣は効率性によってきまる。産業界においては異議のない「効率性」という概念ではあるが,教育において,「効率性」を追い求めることが正しいことかどうか,かならずしも自明の理ではない。6.教育工学は潜在的に教育の個別化を指向しているが,教育の個別化は,ただちに教育における差別や選別として批判されがちであり,かつ実際に差別や選別とつながりがちなのが日本の教育界でもある。7.プログラム学習やCAI,あるいは教育機器を用いて,教育工学的に授業改善を実践していく場合,ソフトウエアの開発と改良にかかる時間と労力は莫大なものである。加えて,教授効果が上らなかった場合,教育工学的考え方の下では,児童・生徒が悪いのではなく,システムやソフトウエアそしてそれを取り扱っている教師が悪いことになる。このこと自体,誤った視点であるとは決して言えないが,少々の熱意では教師は教育工学的視点にもとづく授業改善にとりくめない。8.教育工学的視点に立つ授業改善はしばしば莫大な経費を必要とする,そして文部行財政側から,教育機器購入のための補助金は出ても,そのための人員までふやすことがまずないので,高価な教育機器もほこりをかぶってしまっていることがまれではない。教育機器の設置が,教育上の必要にせまられたものでないことも多い。9.教育工学は,しばしばソフトウエアに多大の人員と時間と経費がかかること,府県あるいは国単位で実施しないと教育工学は成果が期待しがたいこと,また教育工学が教育過程における諸要因の完璧なコントロールをめざすものであること,等から,国民の管理を意図する体制側の教育目標と結びつきやすい危険性がある。10.教育工学は,それが本来の力を発揮しようとすれば,自由時間制,無学年制,ティームティーテング,可動学級編制等,従来の教育制度,学校形態,学校建築を根本的に変えることになる。そのことについての国民的合意がはたして可能か。以上のような10この教育工学的視点をふまえて近い将来をみる時,教育工学が日本の教育界に定着するには,教育工学はあまりにクールであり,教育界はあまりにウエットであるように思われる。
1978-12-20

教育工学的視点とその問題点

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