対外資金援助の有効性「二つのギャップ論」の批判的再評価
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概要
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二つのギャップ理論は発展途上国の経済発展に対する阻害要因が,国内貯蓄ならびに外貨の不足にあるものと規定し,これらの阻害要因を取り除くため,発展途上国に対する資金援助の必要性を示唆するとともに,資金援助の有効性を理論的に支持する役割を果たしている.しかし,この理論は経済発展という中長期的枠組みにおいて用いられるにもかかわらず,価格要因を完全に捨象しているという点に関して多くの批判にさらされてきた.本稿では,特定部門の輸出ブームが誘発する構造調整問題,すなわち,オランダ病の理論的フレームワークを援用することによって,対外資金の流入が誘発しうる相対価格の変化,特に,実質為替レートの変化の観点から,対外資金援助の有効性に再検討を加えた.援助資金が政府財政赤字のファイナンスなどの形で国内経済に注入される場合,また,外貨の移転を通じて通貨の増価をもたらす場合,実質為替レートの増価が生じ,これをシグナルとした資源配分の変化によって非貿易財部門の拡大,貿易財部門の縮小というオランダ病が問題とする構造変化が,対外資金の流入を通じても誘発されうることが明らかとなった.この場合,発展途上国に対する資金援助は二つのギャップ論において期待される効果を達成することができず,その一部を打ち消されることになる.オランダ病の理論は,二つのギャップ理論が捨象した価格要因のなかで,特に実質為替レートに焦点をあてることによって,発展途上国に対する資金援助が持ちうる副次的効果を明らかにするものとして評価することが可能である.
- 千葉大学の論文
- 1996-03-29
著者
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