日本の生物季節現象に関する気候学的研究
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概要
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季節学は気候学の1分科であるが,その広義の定義は地球各地における自然界に及す気象の影響を研究する学問であるが,季節学で対象として取り扱われているものは有機,無機の物体現象である.とりわけ動,植物などの生物界に季節的に起きる現象が主な対象とされ生物季節現象の名でよばれている.これらの季節現象は,以前から実用面にもかなり利用されていたが,欠点として観測値が相当多い地域でなければ多くの資料が得られない.また熱心な観測者がなければ,正確な資料も得られない.わが国において,観測綱は相当緻密であるので多くの資料が集められているが,取りまとめられたものは非常に少い.本論文の目的は欧米諸国の動植物現象の研究概観と,わが国における観測の変化状況および最近の資料によって年間の生物季節暦,および暦線図を研究し,またこれと平行して等季節線の推移状況を主体として研究したものである.わが国の生物季節の観測の歴史をたどってみると,久保田氏の明治13年に刊行されたSmithonian Miscellan eous collection (1972年刊)の訳の観測法がみられるがその後,明治19年始めて気象観測法に取り上げられ,その後幾多の観測法の改正でも,余り急激な改変は認められなかった.しかし昭和28年始めて大改正が行われ,その実施の結果昭和39年1月に小改正があり現在に及んでいる.研究および観測は現在のところもっぱら気象関係者に限定されている観がある.一年間の生物学節歴についてIHNEはよくまとめて報告している.筆者は欧州のものと対比のため1966年公表の改正後13年間の平均値を利用し,各生物季節の各種目の出現日が温度と関係が密接であるので,全国的な平均値と推計学を使用し,乱数表を用いて各種目の平年値および変動を計算し,また出現日と温度その他の気象要素を算出し,出現日の温度を温度線図中に記入したところ,温度的各集団の位置づけによって,早春,春,初夏,初秋,秋,晩秋の七季節を設定し,各集団に属する各種目を選定し,各種目の地点別各季節を表示し,地理的に等発生起日線を通日で図示した.また生物の活動期間を求めたが,その根拠として初春より秋までの期間とした.晩秋は大体初冬と時期的に大差はないので,初春の起日より秋の起日までの期日をもって活動期間すなわち,生育期間と定め,これを無霜期間と比較したが,北日本や中部山岳地域では無霜期間の方が生物活動期間より多い傾向が認められるが,暖地では生物活動期間の方が多かった.わが国の生物季節を基盤とする気候区は目下研究中であるが,ツバメの気候区と類似した成果が推考されたが,これが大気候的気候区分のためのTHORNTHWAITEによる新区分法による日本の気候区分と偶然にも似通った地域区分が得られた.わが国における主な生物季節の代表として最もよく研究されているソメイヨシノの開花,および満開と,ツバメの去来季節の最近13年の平年値を図示した.またツバメについては大正時代,昭和初期および最近の各平年値を推計学を利用し,その分布状態を検定したところ,全国的にみて,その分布の状況には変りはないが平均値では危険率1%で有意差が認められた.これは季節現象の経年変化の結果にほかならぬものと推考された.生物季節の地域的な伝播状況,すなわち等季節線の推移状況についても,諸外国における研究も多いが,わが国のものを動,植物の各種目別に計算した.式として出現日y,緯度φ,経度λ,海抜高hとし,原点を35°N 135°Eにおくと,yは y=a+b(φ-35°)+c(λ-35°)+dhとして現わされる.a, b, c, dの各常数を求めた.また生物季節現象には温度と最も関連が深いので温度を元として最低気温の進行状況と季節線の状況との対比のため, 0°, 5°, 10°, 15°, 20℃などの各最低気温の緯経別移行状況と常数b, c, dの月別状況とを対比し,また欧米の研究者の成果ともくらべたが,その成果との間にかなりの違いがあることが認められた.この原因を考察すると地域に見ても緯度的に南北の開きが大きいが,これに反して経度的にはそれ程巾はなく,その上,東側に黒潮,西側にその分流の対島海流の暖流が流れているのがその原因かも知れない.要するにわが国のおかれている生物季節の特徴ではないかと思う.以上,要するに生物季節について概要のみにわたって論じてきたが未解決の問題が非常に多い.これまでの観測は気象庁関係の官署付近で測られたものが多い関係上,その性格として大気候的なものに限定されているが,それだからといって局所気候や小気候の研究,あるいは微気候的な方面の研究も不必要ということはなく,また,将来この方面の研究もまた応用気候的な面からみて大切なことでこれらの研究は今後の課題として残されている.このような,資料は,日本全国という広地城で多年に亘る観測成果と多人数の協力とたえまない労苦がなければ研究や調査は不可能である.此処に改めて岡田,藤原両先生を始め気象官署や多くの気象人に謝意を表さねばならない.また恩師鈴木清太郎博士を始め指導をあおいだ諸先輩や同僚に感謝し,特に先輩の気候学の先覚者の福井英一部博士に対し深心な謝意を表さねばならない.
- 1969-12-31
著者
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