美術鑑賞のマルチメディア教材「アート・リポーター」に関する一考察
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概要
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本稿では、美術鑑賞を支援するマルチメディア教材「アート・リポーター」を開発し、その効果と課題をパイロット・スタディとして検討した。その結果、「アート・リポーター」体験後の学習者はこのプログラムが鑑賞文の作成に役立ったという意識を持っており、特に見方のヒント(美術鑑賞レパートリー)がもっとも役立つツールとみなしていた。「アート・リポーター」の意義は、日頃鑑賞文作成の機会があまりない中で、学習者が個々のペースで他の人々の意見を参照して多様な美術鑑賞レパートリーを獲得し、さらに鑑賞における思考を深めて文章化することをコンピュータ支援によっても可能にした点にあるといえる。一方、課題としてはソフトウェアとしての操作上の改善や支援ツールの工夫、資料の充実などがあげられた。特に作品についての解釈や評価を考えて文章化する箇所での支援ツールの検討がさらに必要といえる。「アート・リポーター」では、「ホップ、ステップ、ジャンプ」という三つのプロセスの中で、作品理解を深め、思考させ、鑑賞を深化させていくことを意図し、学習者の文章作成の行為を構成し、「ホップ」と「ステップ」での観察記述と印象・感想は、比較的容易に進められた。しかし、「ジャンプ」の解釈や評価では、そこで何を書くかについて学習者が十分に理解できるような改善が必要である。具体的には、解釈や評価に関する参考事例をさらに充実させることや、テンプレートの活用を必須としてトレーニング的要素を強める方法など、複数の視点からの検討が必要と思われる。さらに、作成された批評文をいかに評価するかという課題がある。ジョンソン(Johnson, M. H.)らは、美術批評文の評価システムの開発を進め、記述的項目と解釈的観点、そして評価的反応という三つのカテゴリーからの評価方法を提示している。この評価システムは、教師による評価であるが、これらの評価システムをAAPによる関心度チェックのようにプログラム化することはかなり困難であろう。「アート・リポーター」に関する評価システムを構築することは、このソフトウェアを美術カリキュラムに位置づけるためにも不可欠である。今後、評価システムとともに実践による検証を進めて、教材としての完成度を高めていきたい。
- 宇都宮大学の論文
- 2004-03-10
著者
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