3. プロテアーゼインヒビターによる,卵巣癌転移・浸潤抑制療法(平成6年度猪之鼻奨学会研究補助金による研究報告書)
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概要
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ヒト卵巣癌は血行性,リンパ行性転移の他に腹腔内への播種性転移をおこし癌性腹水を産生することが多い。卵巣癌患者の腹水中にはurokinase type plasminpgen activator (uPA), uPA receotor (uPAR), plasminpgen activator inhibitors (PA1-1, PA1-2)が検出されており,各物質の腹水中での存在レベルが患者の予後と相関するとの報告もある(Chambers SK et al.: Cancer 75: 1627-1632, 1995)。我々は,ヌードマウス異種移植可能な3種のヒト卵巣癌由来培養細胞株(HAC-2, HOC-21, OMC-3)を無血清培養条件下で継代培養している。本細胞を用いてin vitro, in vivo転移浸潤モデルを作成し,種々のプロテアーゼインヒビターによる転移浸潤抑制作用について検討し,その臨床応用の可能性を追求した。1.in vivo転移浸潤モデルの作成 3種細胞各々5×10^6個を,BALB/Cヌードマウス皮下に接種し局所の腫瘍形成の有無について経時的に観察,自然死後速やかに各臓器への転移浸潤の有無を調べた。HOC-21, OMC-3細胞では皮下腫瘤を形成するものの,他臓器への転移浸潤は認められなかった。HAC-2細胞は接種後約3週間にて筋肉,腹腔内への浸潤が肉眼的に著明に出現し,高率(4/10)に肺転移巣を形成した。また, HAC-2細胞同数をマウス腹腔内に接種すると癌性腹水の貯溜が認められた。2.in vitro浸潤モデルの作成 Albiniらの方法(A. Albini et a1.: Cancer Res., 47: 3239-3245, 1987)に基づきchemoinvasion assayを行った。3種細胞のうち,HOC-21,HAC-2細胞が本assay系においてin vitro浸潤能を有することを確認した。3.3種細胞の無血清培養土清中のuPA, tPA (tissue type plasminpgen activator), PAl-1,PA1-2の定量 3種細胞の無血清培養上清中のuPAの存在をELISA法にて定量したところ,HAC-2細胞培養上清中にのみ3.6ng/2×10^6cells/24hrs.のuPAが検出されたが,tPA,PA1-1,PA1-2は認められなかった。HOC-21,OMC-3細胞培養上清中ではuPA, tPA,PAl-1,PAl-2ともに測定感度以下であった。4.3種細胞の無血清培養上清中のプロテアーゼ活性と各種プロテアーゼインヒビターによる活性抑制 ^<125>l-labelled fibrin-coated tubyを用い,3種細胞の無血清培養土清中のfibrin分解活性を測定した。本assay系においてもHAC-2細胞培養上清のみに,強いplasminogen依存性のfibrin分解活性を認め,pasminigen非依存性のfibrin分解活性ハ3種細胞ともに認められなかった。HAC-2細胞培養上清中のplasminogen依存性のfibrin分解活性はserinnrotease inhibitor (PAl-2, soybean trypsin inhibitor)にて完全に抑制された。以上の結果より,HAC-2細胞の転移浸潤機序にHAC-2細胞の産生するuPAが強く関与していると考えられる。uPAはPAl-2,我々がヒト癌性腹水より分離精製した,分子量54KDaのα_1-アンチトリプシン類似タンパク(54K-AP)(N. Tanaka et al.: Jap. J.Cancer Res., 82: 693, 1991)をはじめとするserin protease inhibitor (SERPIN)により活性が抑制されることより,in vitro, in vivo転移浸潤モデルにて各種SERPINの転移浸潤抑制効果を検討中である。
- 1996-10-01
著者
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