カプグラ症候群と永井の<私>論(その2) : 本症候群で変更する他者の<私>の存在論的意味
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概要
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拙稿の前半では、3名の論者による永井の<私>論に対する批判的論説を紹介したが,それら論説では,論者の意図にも関わらず,他者において<私>が存立しえる途筋が充分な根拠をもって確保されているとは言い難いものと思われた.そこで後半では,他者においても<私>が存立することが可能であり,かつ,そのようなものとしての<私>概念はカプグラ症候群の理解に寄与し得るとする筆者の見解を次のような順で述べた.すなわち,<私>の同一性が確保されるためには,<私>は数えることもできない絶対的な唯一性を目指すのではなく,個体としての側面も同時にもつ必要があると考えた.さらに,そのような個体は世界に複数にわたって存在しうることから,自分自身の<私>と同一の世界に他の<私>が同時に存立しえるものと考えた.このことから,現実世界に登場する他者にも他の<私>が付与されており,カプグラ症候群をもつ患者ではまさにその他の<私>について同一性が否認されているものと考えられた.最後に,他者における<私>をカプグラ症候群という病態の上に照らし出したとき,その<私>は他者のものであるにもかかわらず,唯一性がいまだ一般化されていない原初的な<私>であるものと考えられた.
- 秋田大学の論文
- 2005-10-31
著者
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