カプグラ症候群と永井の<私>論(その1) : <私>論への批判で他者の<私>は確保されたのか
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
筆者は,これまでカプグラ症候群の本質規定にあたって,本症候群では他者において「このもの性」としての<私>の変更が行われるものとする小論を発表してきた.しかし,本来は自分自身のものとされる<私>が他者においても存立するか否かという問題にっいて,それらの小論では充分な検討がなされないまま議論が進められていた.したがって,本稿では他者における<私>の存立の是非に焦点を当てた検討を試み,同時に,カプグラ症候群で変更する<私>がもつ存在論的な意味についても検討した.最初に,ここで意図されている<私>概念を最初に提起した永井均の所論から,他者における<私>の存立を否定する彼の主張を概観した.永井によれば,<私>とは自分自身だけがもつ唯一性であって,それが誰もが持ちうる唯一性一般に歪曲されることは許されないことであった.続いて,このような永井の他者論に対して否定的な見解をもつ3名の論者による主張を概観した.しかし,これら論者の主張においても,他者における<私>の存立が充分な根拠をもって確保されているとは言い難いものと思われた.したがって,カプグラ症候群に関する先のような本質規定が妥当なものであるたあには,他者での<私>が存立するための根拠を,異なる視点から新たに探し出すことが必要であると思われた.
- 秋田大学の論文
- 2005-10-31
著者
関連論文
- 統合失調症者の日常生活におけるニーズの検討 -中間施設入所者と在宅生活者との比較から-
- 臨床実習前後における事例提示を用いたワークショップ形式の授業の試み : 学生の自己評価の変化と感想をふまえて
- 「作業に関する自己評価(改訂版)」と精神障害者の主観的満足度との関連性についての研究 : 精神障害領域における生活満足度尺度との関連より
- 事象関連電位による画像品質評価のための課題に関する実験的検討
- ノイズによるテレビ画像劣化の主観評価と事象関連電位P300の関連に関する一検討(ヒューマンインフォメーション)
- 事象関連電位P300を指標としたバーストノイズによるテレビ画像劣化の評価に関する実験的検討
- カプグラ症候群から開始する他者論の試み : 可能世界に住む自己の変異体
- 自分の死と他者の死は誰にかかわることか : 死の形而上学へのカプグラ症候群からの問いかけ
- Capgras 症状における同一性否認が事物よりも人物に対してなされるのはなぜか : 日常言語の中にある人物の「このもの性」の検討から
- Capgras 症状と同一性が孕む存在論的な危機との関係 : 成因論の基礎に関する分析哲学からの接近
- Capgras 症状と可能世界 : 本物とにせものが存在する場所
- カプグラ症候群と永井の論(その2) : 本症候群で変更する他者のの存在論的意味
- カプグラ症候群と永井の論(その1) : 論への批判で他者のは確保されたのか
- 試論 患者にとって他者が別人になるとはいかなることか--Capgras症状への論からの接近の試み
- Capgras 症状と私の同一性 : 属性を欠如する「このもの性」の視点から
- ヒトにおけるREM睡眠時に特徴的な大脳皮質活動の先行的な出現