日本における環境報告書の動向 : 企業の社会的責任(CSR)の観点からの考察
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概要
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近年,地球環境問題はますます複雑化深刻化し,国際的な重要課題としての危機意識が高まり,とくに社会経済活動の主要な部分を占める経済主体である企業に対して,自主的な環境保全のための行動の促進が求められている。同時に,環境配慮に積極的に取組む企業が社会から適切に評価され,消費者や地域住民などのステークホルダーからの支持を集めるためのコミュニケーションツールとして,環境報告書を発行する企業が増えてきた。さらに,環境保全への対応の評価等により投資銘柄を選定するエコファンドが登場し,環境経営度などによる環境のブランド化も進んできた。現在,環境報告書はこれらの評価において最も重要な資料の一つとして認識されている。一方,経済社会の持続可能性の観点から,環境問題ばかりでなく,安全・衛生や人権など様々な問題に対して企業が社会的責任を果たしていくことが求められるようになってきた。企業の社会的責任(CSR)については,欧米を中心に「経済・環境・社会」の3面における企業の取り組みの成果(トリプル・ボトムライン)の考え方が重要視されるようになり,法制度の整備が普及を積極的に後押しした。その結果,企業は環境面だけでなく社会・経済面も含めた「持続可能性報告書」を作成し公表する必要性が高まってきたのである。わが国においては欧米と異なる歴史的背景があることなどから,雇用や人権などの社会的責任よりも企業の環境面における取り組みに関心が高かった。しかし,持続可能性の観点の国際的な認識が広がってきたことや,エコファンドに続いて社会的責任投資(SRI)が登場したことなどから,持続可能性報告書のプレゼンスが増加している。また,政府や経団連が持続可能性報告書の発行を推進する方針を発表しており,環境分野にとどまらず,トリプル・ボトムラインの3側面の内容を包含するような報告書が今後も増えてくると考えられている。しかし,持続可能性報告書はまだ目的適合性,比較可能性,理解容易性などの点で課題を残している。また,企業の社会性を消費者や投資家の観点から評価する歴史的背景をもたない日本で,欧米のような広範な内容がステークホルダーから求められるかどうかは,現段階では不明である。したがって環境情報関連の報告書の動向については今後の研究課題としたい。
- 2004-06-30
著者
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