水素の燃燒に關する研究(第四報) : 水素の燃燒範圍に對するセレン化水素の作用
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概要
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本報は水素の燃燒範圍を縮小せしむる研究の繼續として、セレン化水素の作用に關する研究である。前報迄に發見した抑制劑は、何れも水素燃燒の高極限を低下せしむること極めて著しいのであるが、低極限を高めることが出來ない。殊に二エチルセレンは水素の高極限を極めて顯著に低下せしめるに拘らず、低極限は殆ど之れを高めることが出來ない。其の理由として著者等は、水素の特殊の燃燒の爲めに二エチルセレンも亦燃燒し、其の燃燒熱に依て理論火焔温度を高めるが爲めであることを考へた。此に於て、二エチルセレンと其の化學的構造の類似したもので、而かも燃燒熱の小なるセレン化水素を撰び、之れが水素燃燒の範圍に對して、果して如何なる影響を呈す可きかを研究したのである。本報告は其の結果である。之れに依るとセレン化水素は、水素燃燒の高極限を著しく低下せしむると同時に、豫想の通り其の低極限を上昇するのである。低極限を上昇せしめた新事實は、本實驗が最初であることに殊に興味を感ずる。猶セレン化水素の理論火焔傳播温度は1750℃.で、二エチルセレンの夫れと同じく、硫化水素の夫れよりも著しく高い。依て斯の如き物質が燃燒す可く活性化せられる温度は、負原子の性質に依て定り正原子・又は正原子團の性質には無關係である様に思はれる。又二エチルセレンの1%は、水素の理論火焔傳播温度を1090℃.から1750℃.まで高むるに充分であるが、セレン化水素は2%で同樣の効果を示す。即ち水素の高極限低下の効率は、決して混合氣體中のセレン原子の數のみに依て定まるものでは無く、之れと結合せる他の原子又は原子團の性質が關係することが判る。是れはセレン化物分子の平均斷面積の大小に依り、水素の活性分子及び活性化されつゝある分子等が、之れと衝突するProbabilityに大小を生ずるが爲めであると思はれる。セレン化水素は水素の燃燒防止劑として實用上には不適當と考へられる多くの點がある。例へば有毒で且稍不安定であるが如き性質は夫れである。從て恐らく實用上の價値は無いが、本研究の結果は更らに優良なる水素爆發防止劑の探究に新しき指針を示したものである。
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