水素の燃焼に關する研究(第一報) : 水素の燃焼範圍に對する臭化エチルの作用
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概要
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氣球及び航空船氣嚢用の氣體として現今使用せらるゝもりは唯水素あるのみである。不燃性の故を以てヘリウムが以上の目的に最も好適するものと考へられては居るが、其の自然界に於ける生産が少量で且偏在し、隨時到る所に捕集採製することが出來ない憾みがある。是れ今日猶水素が殆ど唯一の氣體として以上の目的に使用せらるる所以である。然るに水素の大なる缺點は極めて燃焼性に富むことである。氣球及び航空船に於て屡々起る災害は是れに基くのである。本研究者は水素の燃燒を防止又は抑制せんと企て、之れは水素の燃燒範團を縮小することに依て達し得可しと考へた。而して水素に或る適當なる物質を混和し、其の比重を著しく増加せしめずして水素の燃燒の範團を著しく縮小することを得ば其の目的を達するに近しと考へた。本研究第一報は其の階梯として水素の燃燒研究より水素に臭化エチルを微量に加へたる場合の燃燒範圍に就て研究した結果である。本研究に依り水素に微量の臭化エチルを加へたるものは、其の比重を著しく増加せずして而かも能く其の燃燒範圍は著しく縮小せらるゝことを初あて認むることを得た。以上の現象の基く理論は次の通りである。水素及び空氣混合氣體中に火焔の傳播するや、火焔中に於て大なる運動エネルギーを有する分子が火焔前面に於ける未活性の水素分子に衝突して之れを活性化せしめ、活性化せられたる水素分子は酸素と衝突して燃燒する。斯くして火焔は傳播するのである。然るに若し水素空氣混合氣體中に臭化エチルの存在する場合には、此の火焔中及び火焔前面の活性化せられたる、又は活性化せられつゝある分子のエネルギーが臭化エチルの分子に傳へられ、且又大なる運動エネルギーを有する火焔中の分子も臭化エチル分子と所謂第二種の衝突をして其のエネルギーを失ひ從つて水素分子を活性化する能力を失ひ結局水素の活性分子の數が減少し、火焔の温度を水素のみの場合よりも一層高めなければ火焔の傳播は困難となる。即ち火焔の傳播する爲めには高極限は低下しなければならぬ。而して臭化エチルの添加量の増加に從ひ火焔の傳播に必要なる理論火焔温度は高くなり、即ち火焔傳播高極限は益々低下するのであるが、此の状態は終に臭化エチル分子自身が著しく活性化;せらる可き温度に到て止むのである。本研究に於ては水素の理論火焔傳播温度並に水素火焔中に於ける臭化エチルの理論火焔傳播温度をも求めて之れを論じてある。本研究結果の一例を示せば、水素に1.3%の臭化エチルを加へたものは空氣の比重を1として其の比重が0.113でヘリウムの比重(0.138)よりも小で、而かも其の燃燒範圍は水素の9-71%に對して9-51%であるから、燃燒範圍は約2/3に縮小された譯で從て爆發の危険牲は著しく減少し得ると考へる。
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