痛み : 人間学的探究の出立点
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概要
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医療行為の、あらゆる知識に先立つ本質は、二人の人間の接触にある。ヴィクトール・フォン・ヴァイツゼッカーは、「小さなサマリア人」の「原情景」に、最初の医師と患者の概念と最初の治療の技術を、そして医師-患者関係の、時代と人とその経験と病気の種類等を貫いて変わらぬ永遠の本質を現象学的に洞察する。痛みを目にするとき、私たちは落ち着いて眺めていることができなくなる。人は、痛みに向かうか、痛みから身を背けるかしなければならない。医師であることの本質は、他者の痛みに身を向ける「傾倒」にある。痛みは、私たちを環界から脱離させながら、同時に、環界と結合させるものでもある。「対極的現象」が痛みの「原現象」である。全生物が痛みの秩序の中に組み入れられている。私たちは、「生命秩序の中の痛みの座」を探求しなければならない。痛みは、「肉となった真理、真理の受肉、すなわち生命の現実そのものを指示する生命秩序の構造」である。痛みは単に私たちが受ける感覚であるばかりでなく、生命の作用でもある。それは人格を作り、人格が痛みを作る。ヴァイツゼッカーは、ガンや拷問のような「破壊の痛み」と成長や創造のような「生成の痛み」とを区別した。医師は、痛みのことに精通していて、常にこの区別ができるのでなければならない。さまざまな症状は、「痛みの労作」の徴とも見られる。痛みにおいて、私は、私自身の中に、有るべきではないにもかかわらず、有り続けるものがあるのを知覚する。私たちは、そこで、「感性的懐疑」に陥る。それは、単に現存としてのみでなく、むしろ被造者としての私たちの現存を問わしめる。課題は、医師と患者にとって、痛みの除去でなく、「痛みの労作」とその決断との成就にある。
- 2004-03-31
著者
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