特集「神経組織の発生と再生における細胞外マトリックスの役割」を組むにあたって
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概要
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細胞外マトリックスの分子組成や機能についての研究は,結合組織を主な研究材料として発展してきた。その膨大な成果を基に,最近10年ほどの間に,神経組織の細胞外マトリックスの研究が飛躍的に進展してきた。神経組織には,非神経組織にも存在する細胞外マトリックス分子ばかりでなく,主に神経系に発現している分子も多く存在する。これらは神経組織特有の細胞環境を形成し,神経細胞の機能調節や神経回路の形成・維持に関わっていることがわかってきた。また、神経の可塑性を制御している分子として,神経細胞の微細環境を修飾する分子の存在も注目されるようになった。さらに,これらの基礎研究の成果を,神経損傷の治療に応用する研究も活発に行われ,21世紀になってから,極めて期待が持てる知見が報告されはじめている。本特集は,この急速に進展している神経組織の細胞外マトリックスに関する研究の現状を,6名の気鋭の研究者による総説集としてまとめたものである.その概要は次のとおりである。最初に,一條裕之先生が神経細胞が遠くはなれた標的細胞まで正確に軸索を伸ばす機構に,細胞環境を構築しているプロテオグリカン群が関与していることを紹介されている。前田信明先生は,ホスファターゼ活性を持つ受容体型プロテオグリカンか,神経機能を制御する情報伝達分子として機能していることを紹介されている。ヒアルロン酸は中枢神経組織の細胞外マトリックスの骨格となる分子であるが,大橋俊孝先生は,ヒアルロン酸マトリックス形成の鍵となる新規リンクタンパクを紹介されている。神経組織の細胞環境を効果的に修飾する分子として,山内忍先生は,エクトキナーゼを,また吉田成孝先生は,各種の細胞外セリンプロテアーゼを紹介し,それぞれの役割について議論されている。最後に,鳥羽紀成先生と中村達雄先生が,コラーゲンを含む人工神経導管を用いた末梢神経再生治療法の開発と,臨床応用における有効性について紹介されている。本特集が,神経組織と結合組織のマトリックス研究にとって,更なる相乗的飛躍のきっかけとなれば幸いである。
- 日本結合組織学会の論文
- 2003-03-25
著者
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大平 敦彦
愛知医科大学先端医学・医療研究拠点
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大平 敦彦
愛知県心障者コロニー・発達障害研究所・周生期学部
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大平 敦彦
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所・周生期学部
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大平 敦彦
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 周生期学部
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大平 敦彦
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
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