タイ国産イセハナビ属の数種について(2)
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概要
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筆者は,1980年6月から11月にかけて,ヨーロッパ及び東南アジアの主要なハーバリウムを訪れ,主としてイセハナビ属の標本について検討を行なった。また,疑問の残る標本については,これらを借り受け,さらに検討を加えている。その結果のうち,タイの種に関するものについては,今後,本シリーズで発表したい。5)タイ北部のチェンダオ山の石灰岩上に生育する新種,Strobilanthes chiangdaoensis TERAOを記載した。本種は,a)花冠内部の,花柱を支持する毛が2列に束生する,b)子房の各室2個の胚珠のうち,上側の1個のみが発達する,c)雄ずい(4 本)は突出せず,葯は直立する,d)はしご状の模様のある縦の帯をもつ楕円体の花粉をもつ,などの形質を合わせもつ点で特徴的である。a)とb)は,ブレメカンプ(1944)が彼のイセハナビ亜連の分類において,グループ"V"に所属させた種にしばしば見られる形質であり,c)とd)は,グループ"P"にみられるものである。本種は,グループPとグループVとの中間に位置する種のひとつと言うことができる。6)Strobilanthes dalzielii (W. W. SMITH) R. BEN. をタイ北部から報告した。本種はこれまで,中国,トンキン,ラオスから知られていたものである。BENOIST(1935)は,本種のうちで顕著な不等葉をもつものをvar. inaequalisとして区別した。しかし,Lo(1974)は中国産の本種について検討した結果,var. inaequalisを変種として区別することはできないと考えた。基準標本を含めた多くの標本について不等葉の程度について観察すると,この形質には変異が多く,時に同一標本においてすら変異する場合がみられるので,いかなる分類群をも指標する形質とはみなしがたい。var. inaequalisを変種として区別できないとするLoの意見が妥当と考える。7)Strobilanthes pateriformis LINDAU をタイから報告した。本種は,トンキンから報告されていたものである。マレイ半島とスマトラからそれぞれ報告されていた,Strobilanthes phoenicea RIDL.及びS. ridleyi MERR.も共に本種と同じものであると考える。本種は,ブレメカンプ(1944)が立てたPteroptychia属に所属するものである。Pteroptychiaは,ウニ状の花粉をもつこと,及び,外側の花糸の下部が花冠と合着した部分にできる膜の外側に,さらに2次的な膜のできること,で特徴づけられる。しかし,広義のイセハナビ属においては,いくつかの種群でウニ状花粉がみられること,また,Pteroptychiaに所属するもの以外にも,2次的な膜のできる種が稀にみられることなどから,Pteroptychiaを独立属とみなすことは無理と考えられる。本種は通常,枝に顕著な翼がみられるが,トンキンのものでは,しばしば翼が発達しない。しかし,トンキン以外の地域のものでも,翼の発達の程度にはかなり変異がみられるので,翼の発達の程度によって,本種に種内分類群を認める必要はないと思う。本種の花色については,紫から白までいろいろ報告されており,かなり変異するものと考えられる。
- 日本植物分類学会の論文
- 1981-06-15
著者
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