キャピラリー電気泳動を用いるヒトα_1-酸性糖タンパク質の薬物結合研究
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概要
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生体に投与された薬物は血液中に移行しアルブミンやα_1-酸性糖タンパク質(AGP)など複数のタンパク質とタンパク結合平衡状態で存在する.この時,非結合型薬物のみが血管壁を透過し組織に移行することからタンパク結合は薬理効果や副作用の発現,薬物体内動態に影響を与える.また,タンパク質自身がキラルな高分子であるので,光学活性な薬物のタンパク結合は異性体間で異なることが多い.さらにAGPを始めとするいくつかの血漿タンパク質は感染症・炎症・外傷などの病態時に急性相反応を示し,血漿中濃度が約1/2-5倍と大きく変動するとともに,糖鎖構造やアミノ酸配列の異なるAGP isoformの分布が変化する.それゆえ急性相反応中の血漿タンパク結合性が定常時のそれとは異なり,予期せぬ薬物体内動態や薬理効果,副作用をもたらす恐れがある.これまで医薬品の開発過程や臨床において全血漿や全アルブミン,全AGPの結合解析が行われてきたが,特にAGPのようなisoformの分布に大きな個体間変動・病態変動が見られるタンパクの場合,病態に応じた薬物投与計画を構築するためには全血漿や全AGPの薬物結合解析のみでは十分ではなく,各isoformの立体選択的薬物結合性を明らかにし薬物の血漿内分布を解明することが重要となる.これまで血漿中非結合型薬物濃度の定量には主に限外ろ過法や平衡透析法が用いられてきた.これらの従来法は,薬物の膜への吸着や結合型薬物の漏れに伴い測定誤差が生じることや,平衡化に時間がかかる,高疎水性薬物への適用が困難,試料消費量が大きいと言う問題点がある.さらに限外ろ過膜に使用されている素材は合成セルロースなどのキラルな高分子であり,光学活性な薬物の膜吸着量が光学異性体間で異なることがある.一方,結合親和性評価法については上記従来法のほかに種々の分光学的手法やカロリメトリーなどが用いられるが,一般的に生体実試料への適用が難しく試料消費量が大きいという問題点が付随する.本研究ターゲットであるAGP isoformなどはアルブミンなどと比べてごく少量しか存在していないので,これらの結合実験を行うには試料消費量の少ない方法に限られる.微量結合分析という点では最近表面プラズモン共鳴を利用したバイオセンサーがよく用いられるようになってきているが,血漿タンパク結合解析に利用するには感度が十分ではなく,またタンパクの固定化に伴う構造変化によって正しく測定できないことがある.以上に述べた状況を考慮すると,AGP isoformの薬物結合研究には試料消費量が少なく(100-300nl程度)吸着による誤差の生じにくい高性能先端分析/キャピラリー電気泳動(HPFA/CE)法が有用であると思われる.ここではAGPの糖鎖多様性やアミノ酸配列の異なる遺伝的variantが立体選択的な薬物-タンパク結合に与える影響をHPFA/CE法を用いて調べた結果について述べるが,HPFA/CE法の原理については他の文献に述べられているので割愛する.Figure 1には本研究で用いた薬物の構造式を示す.いずれもAGPと選択的にタンパク結合することが知られている代表的な塩基性薬物である.
- 2003-09-01
著者
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