思考過程における知識獲得・運用の役割

概要

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思考はヒトにおいて特に高度に発達した知能の中心的な活動であり、種としてのヒトを生物界の頂点に位置づける重要な機能である。本稿では、思考を「自己の内・外からの情報に対して最適な対応を選択・決定するために行う情報処理」と定義する。ここで自己の外からの情報とは、外界からの密接の働きかけを意味するのに対して、自己の内からの情報とは、外界からの直接の働きかけなしに生ずる内面的な願望・欲求を意味するものとする。ヒトにおける思考を司る器官は、いうまでもなく大脳皮質の連合野であるが、他の領野もこれと密接にかかわることが知られている。上述の定義における情報処理とは、入力情報の加工、内部に蓄積されている情報の検索あるいは新しい情報の生成などをさす。ヒトがその生存の過程において遭遇するさまざまな情報や事態に対して適切な対応を行うには、多くの知識をあらかじめ手に入れておくこと、すなわち知識の獲得が必要なのは勿論であるが、同時にまた、個々の事態に対して最も適切な知識を選択して利用すること、すなわち知識の運用が極めて重要である。この意味で、知識は思考のための素材であり、その運用は思考のための操作であるといえよう。これらは、ヒトにおいては生後かなりの長期間にわたる生育の過程において、日常的に遭遇する種々の環境の変化や他の個体との接触を通じて次第に体得されるものである。一方、人工的な手段による知的能力の実現、すなわち人工知能は、その研究に多大の努力が払われて来たにも拘わらず、未だ人間の知能に遠く及ばないのが現状である。その大きな原因は、従来の研究が既存の知識や能力の定式化とその近似・模倣に主力を注いでおり、人間における知識やその運用能力の獲得の過程から学ばなかったためと考えられる。本稿では、このような見地から、知識とその運用能力の獲得、および思考過程との関係について若干の考察を行う。なお、知識には言語的なものと非言語的(イメージ的)なものとがあるが、以下では言語的知識に対象を限定して論を進める。
一般社団法人電子情報通信学会の論文
1995-09-05

思考過程における知識獲得・運用の役割

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