『烏賊の骨』再考
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概要
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詩集『烏賊の骨』"Ossi di seppia"の作品を順次読んだ後に感じとれる詩篇全体を支える構成の秩序が、作者モンターレによって果してどの程度まで意図されていたのかという問題がある。この処女特集は、後年モンターレ自身の語るところによれば、本能的に「音楽的表現への欲求に付き随って」いくうちに「ひとりでに書き上がってしまった書物」だという。なるほど、『烏賊の骨』の詩篇の制作時期にあたる一九二〇年から二七年までの七年間は、モンターレの今日まで至る創作活動の中で、「模索と発見の時代」、表現の裏付となる理論を自覚的にもたない「批評精神不在の時代」として位置づけられている。しかし、『烏賊の骨』という詩集が、その作品のように「ひとりでに」成立したかというと答は否である。つまり詩集を編むに際してモンターレには詩篇全体に有機的な構成の糸をはりわたそうという意図が少なからずあったと考えられるということになる。その論拠として、まず、詩篇の排列が巻末の註から知ることのできる制作順序を顧慮せずなされていることが挙げられる。さらに、一九二八年リベット版では、初版ゴベッティ版から「夢想曲」Musica Sognata 一篇を削除し、新たに二六、七両年に制作された六篇を加え、詩篇の排列も改変したという事実も、詩集全体を一個の作品としてより堅固な形で提示しようとするモンターレの意図のあらわれだと考えることができる。(そして、この改変は同時に、『烏賊の骨』から第二詩集『動因』"Le occasioni"へのより連続的な移行を可能にすることでもあった。)
- 1980-03-10
著者
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