<たそがれ派>試論抄
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概要
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詩を書くという行為が、詩人自らのあやふやな存在に外光を与え、その収劔した一点の下に自らの精神状態を峻厳に凝視することによって、時の流れを超越するものを自らの時間体系の中に認識するまで自らの世界を愛撫しつづけるものだとすれば、詩は、詩人の自己確認の場として選びとられたものであるといえる。しかし、ボードレールをはじめとして近代以降、詩を書くという行為は絶えず悲劇性をおびてきた。つまり詩を書くことによって眼前の社会に誠実たらんとする詩人の態度が真摯であるほど、道は不毛の荒地へと続いているという事実は近代以降の詩人の背負った宿命ではなかったのか。思うに、近代の詩人の歴史とは、自己を社会に保証しようとして果せなかったものの歴史であり、近代人の破滅的徴候を誰よりも鋭敏に感じとって表現しようと志したものの歴史である。二十世紀の初頭のイタリアに現われた<たそがれ派>"i crepuscolari"とよばれる詩人たちは、この近代の詩人の背負った痛ましい宿命を象徴している。S・コラッツィーニ、M・モレッティ、C・ゴヴォーニ、N・オクシィリア、F・M・マルティーニ、G・ジァネッリ、G・チヴィニーニ、G・ゴッツァーノ、A・パラッツェスキ、……これらの若い詩人たちは、彼ら自身は文学集団としての結束も宣言も有してはいない。彼らを<たそがれ派>と総称したのは批評家G・A・ボルジェーゼである。ボルジェーゼは、この若き詩人たちが逝き、或いは異なる文学的段階に移行したといえる一九一〇年の時点で、その著書"La vita e il libro"に於てこう言っている。彼らは全くというほど虚栄への憧れも野心も抱くことなく、ただ極めてデリケートな内面の感情を持っている。……あるがままの彼らを理解し、彼らの能力の範囲内で彼らを評価すべきである。決して彼らの欠点にいきり立ってはならない。それは一つ一つとってみれば全てが彼らの罪ではないのだから。彼らの詩は……黄昏のこえである。偉大な古へのこえの最後の反響を凌駕するに足る力も彼らにはない。そして黄昏が彼らを包む。遂には、父祖たちの罪ばかりか栄光もこれらの息子たちの上に重くのしかかるのである。(II, 160P)
- 1976-10-01
著者
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