総合診療医と専門医
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概要
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近年,臓器別診療の定着とそれに伴う専門領域以外の診療能力の著明な低下が指摘され,総合的診療の重要性が再認識されている.その対策の一つとして,患者さんを臓器別ではなく総合的に診ると銘打って,多くの施設で総合診療科あるいは一般内科を標榜する診療科が新設されつつある.しかしその実態は,一部に研修医教育を専門とするところがあるが,多くは心身医学的な背景をもって診療をしており,心療内科が人を総合的に診ると評価されていることを改めて実感するとともに,そうであるならば「心療内科」と堂々と標榜し,総合診療科とは一線を画すべきと考える.さてこのような医療現場での対応はあるものの不十分と判断したのであろうか,2004年に厚生労働省は何が何でもプライマリ・ケアができる医師を養成しようと研修医制度改革に踏み切った.新制度が思わくどおり一般的な医学知識,技術を修得した医師を養成できるかどうかは5年ほど実施したところで評価し,さらに検討を加える必要があろう.しかし,インターン制度下で研修した先輩諸氏,インターン廃止,研修医制度もなかった頃に研修した筆者ら,改革前の旧研修制度で研修した後輩たちについて,一定の基準のもとに医師としての知識,実技などの評価がなされていないので比較するものがないのが実情である.筆者は真に専門知識が理解,修得されていれば,自分の専門か,専門外かの判別はそれほど困難ではなく,専門外であればしかるべき科に検査,治療を依頼し,その結果がフィードバックされて確信的な知識として蓄積され,医学全般の理解に結びつくと考えている.ところが現況では,専門と称する領域での知識・経験が不足し,真に理解できないままの表面的な診療となり,関連領域とのリエゾンも不十分で,原因不明のまま患者さんは治るか転医してしまうことが少なくない.どの領域の医師にとっても総合的な診療は不可欠である.しかし,医学知識や診療体系が急速に進歩し,変化しつつある現状では,十分な総合診療を行うための知識の獲得やそれに代わる綿密なコンサルテーションの時間的余裕を確保することは非常に困難である.総合診療医は注目されてはいるが,広く浅い知識の修得になりかねず,実際の現場では専門医との意見の不一致が少なからずあり,かなりの施設で摩擦が見受けられるようである.加えて患者さん側も専門医による治療を希望する場合が多く,このような状況のもとで当初は総合診療医を目指していた医師も興味のある領域をみつけて,その専門医を望むようになり,なかなか総合診療医の地歩が固まらないのが現状である.そうならば,専門領域のあらゆる例外的な事象にも十分に対応できるような真の専門家を養成し,コンサルテーションの内容の充実を図り,それを契機に多領域の活きた知識を修得することで総合的診療を心がけるのが良策と考える.心療内科の領域でも,他科からの患者さんはその診療科では問題ないとして依頼され,実際には当該科のまれな疾患や症候であったことや,逆に器質的な疾患を心身症,神経症,あるいはうつなどとして診療していることもあり留意すべきであろう.小医は病を,中医は人を,大医は国を治すといわれるが,どの場合にも医学,医療における知識,実技の修得に多くの時間が必要である.しかし,目まぐるしく変化する制度や診療実績,機能などの評価を興味本位に扱うマスコミに振り回されて現場では学ぶ時間が圧排され,大医はおろか小医にもなれないことが憂慮される.
- 日本心身医学会の論文
- 2005-07-01
著者
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山本 絋子
藤田保健衛生大坂文種報徳會病院神経内科(心療内科)
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山本 〓子
藤田保健衛生大坂文種報徳會病院神経内科(心療内科)
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山本 絋子
藤田保健衛生大学 医学部神経内科
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山本 絋子
藤田保健衛生大学 神経内科
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山本 絋子
藤田保健衛生大学医学部附属第二教育病院 神経内科
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山本 絋子
高知大学 耳鼻咽喉科
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山本 〓子
藤田保健衛生大坂文種報徳会病院・神経内科
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