潤滑油成分に対する選択性を有するセラミックスの作製と評価
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概要
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エネルギー・動力機器や工作機械といった産業界で使用される機械システムには多くの摺動部品が用いられている.システムの性能向上に向けて摺動部には高速化,高剛性化や高トルク化が要求される一方,潤滑油の供給量を減らしながら摩擦損失や摩耗の低減が求められている.ますます厳しくなる要求に対して金属製の摺動部品では限界があり,軽量で耐焼付き,耐摩耗性等に優れたセラミックスはブレークスルーの鍵を握る材料として期待されている.一部でその実用化も進んでいるが,セラミックスを有効に活用し,摺動部材としてさらに普及させていくための課題は多く,その中で潤滑油との反応性に着目した新しい材料の開発も重要な課題の一つと考えている.著者らはこれまで,親油性に優れた材料を得るための一連の研究を進めており,Fe_O_4を添加したSi_3N_4が油膜保持性に優れ,添加剤を含まない合成油を使用した条件下において優れた摩擦摩耗特性を示すことを報告した.一方,添加剤を含む汎用的な潤滑油を同材料に適用した場合,その表面の化学的性質は金属と異なるため,清浄分散剤の一部が摺動面に付着するといった特異な挙動を示し,油性効果が損なわれ摩擦係数が増大することも明らかとなった.摺動部を有するシステムにおいてセラミックスは特定の部分に限定されて使用されることが多く,システム全体でみると金属製の摺動部分が多数を占める.一方,潤滑油は一つのシステムにおいて共通であり,金属,セラミックスを問わずすべての部分を円滑に摺動させなければならない.汎用的な潤滑油は金属の欠点を補うべく長年の研究を経てその成分が決定されており,少量使用されるセラミック部品のために潤滑油を替えることは実際には困難であって,むしろ汎用的な潤滑油を使用した場合にも効果を発現するセラミックスを開発することが望ましいと考えた.セラミックスの摩擦摩耗に関する従来の研究としては従来,無潤滑下での現象を採り上げた例が多い.潤滑油を用いる系は実用上重要でありながら,報告例は比較的少ない.報告例をみると,いずれも一般的なセラミックスを試料として潤滑油成分の摩擦係数への影響について検討がなされており,必ずしも固体側の成分との関係が検討されている訳ではない.摺動特性は潤滑油中の成分と固体側,すなわちセラミックス表面の性質の相互作用によって決まることを考えると,優れた摺動特性を得るには潤滑油に含有される成分と,固体側成分との反応性に着目したセラミックス材料の開発が必要であろうが,こうした考え方に基づき検討を行った例は見当たらなかった.こうした経緯ならびに状況をふまえ,本研究では汎用的な潤滑油下においても優れた摺動特性を有するセラミックスを得るため,セラミックスに潤滑油含有成分に対する選択性を付与することが有効であろうとの考えに基づき,原料の選定を行ったうえ,得られた焼結体の特性を明らかにすることを目的とした.
- 社団法人日本セラミックス協会の論文
- 2003-09-01
著者
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大角 和生
(株)いすゞ中央研究所
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飯塚 建興
(株)いすゞ中央研究所
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北 英紀
独立行政法人産業技術総合研究所先進製造プロセス研究部門高温部材化プロセス研究グループ
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北 英紀
(株)いすゞセラミックス研究所
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北 英紀
(株)いすゞ 中央研究所 基盤技術研究部
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平井 岳根
(株)いすゞ中央研究所
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平井 岳根
(株)いすゞ 中央研究所 基盤技術研究部
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飯塚 建興
(株)いすゞ 中央研究所 基盤技術研究部
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大角 和生
(株)いすゞ 中央研究所 基盤技術研究部
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北 英紀
(独) 産業技術総合研究所
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