妊娠中毒症と尿細管機能

概要

論文の詳細を見る
妊娠時の腎機能の推移についての報告は比較的多いがそのほとんどが血清クレアチニン(s-Cr)、クレアチニンクリアランス(Ccr)などの糸球体機能が中心であった。尿細管機能検査は定量化できるものが少なく、あまり注目されることがなかった。尿細管性蛋白の一つであるβ_2-microglobulin(β-MG)、血清Cl、血清Na minus Cl (Na-Clindex)、血清尿酸などを用いて、(1)妊娠初期より観察しえた妊婦19例をA群とし、妊娠10週、20週、30週、36週前後に上記の項目を調べ、妊娠経過中の尿細管機能検査の推移を検討した。(2)重症の妊娠中毒症症例19例(B群)と正常妊婦20例(C群)の尿細管機能を比較し、妊娠中毒症の尿細管機能に与える影響について検討を加えた。(結果)(1)A群の検討より血清Cl、尿β-MGは妊娠経過とともに上昇を示した。Na-Cl indexは逆に低下を示した。尿酸は妊娠末期に上昇を認めた。これらのことより無症状と思われる妊娠においても尿細管機能障害を呈するものと考えられた。外来管理中は安価で即日に結果のでる血清Clなどにて観察するのがよいと思われる。(2)B群では血清Clの上昇、Na-Cl indexの低下、尿β-MG の上昇などの尿細管機能障害がC群に比較し、より顕著に認められた。このB群ではfetal distressなどによる帝王切開や胎児死亡が多かった。このことより、尿細管機能障害の重症度はその後の母体胎児予後を予測するのに有用と思われ、血清Cl 110mEq/1、 Na-Cl index 28mEq/1、尿酸6.0mg/dl、尿β-MG 1、000μg/1が一つの危険ラインと判断できた。(3)分娩後、速やかに尿細管機能は回復し、尿蛋白の存在に関係なく、尿β-MGは約2〜3週にて正常値となった。妊娠中毒症の尿細管機能障害は一過性であり、尿蛋白などの糸球体機能障害は回復に時間がかかると考えられる。
社団法人日本産科婦人科学会の論文
1987-01-01

妊娠中毒症と尿細管機能

スポンサーリンク

概要

著者

関連論文

スポンサーリンク