子宮頸癌に対する放射線・化学療法同時併用療法の現状と問題点
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概要
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わが国における頸癌の治療成績は,初期/早期癌比率の上昇に伴って向上しつつあるとされるが,進行癌患者の予後はなお重大である.頸癌の治療方法は,手術療法と放射線療法を基本としてきたが,近年,cisplatin製剤の導入による化学療法の役割が急速に拡大し,治療成績の現状打破に向けて大きな期待がかけられている.頸癌の化学療法については,主治療としての手術/放射線療法の前に併用するneoadjuvant chemotherapy (NAC),主治療としての放射線療法と同時に併用するconcurrent chemoradiation (CCR),主治療としての手術療法の後に併用するadjuvant chemotherapyとに大別される.それぞれの臨床研究の質qualityの評価については,アメリカAgency for Health Care Policy and Research (AHCPR)の評価基準によると,CCRでIa,NAGでIb/IIaとなり,現時点として,CCRが客観的なデータに裏づけられた,最も有望な治療方法であるとされている.Green et al.(2001年)によるmeta-analysisは,1980年代後半からアメリカを中心になされたCCRに関する19のrandomized controlled trial (RCT)を集計,解析したもので,症例のほとんどは頸部に巨大な癌腫瘤を形成した局所進行例あるいは所属リンパ節転移例である.結論として,CCR,とくに放射線療法とplatinum製剤との同時併用は,生存率を有意に向上させ,再発率を有意に低下させるというものである.そして,この効果はI/II期症例を多く含むtrialでより顕著であるとしている.また,有害反応については,比較的強く発現するが,ほぼ許容範囲であるとしている.当科では,1997年から,CCRを検討してきており,昨年末までに113例を経験した.なお,当科では,無作為化比較試験RCTは行ってきていない.適応は,原則として扁平上皮癌とし,頸部癌腫瘤短径が4cmをこえるもの,あるいは,所属リンパ節腫大を認めるもの,としてきた.1997〜2001年に治療した83例のうち大動脈リンパ節腫大を伴わない69例の5生率は68%であり,先の一連のtrialに匹敵する成績が得られている.一方,急性期障害,とくに血液系障害は過去の放射線単独療法時代の症例に比較して有意に高率であり,また,晩期障害としてGrade 3/4の腸炎が2%に観察された.今後の問題点として,(1)放射線療法の内容,(2)化学療法の併用様式,(3)進行癌症例に対する評価,(4)予後背景因子の解析,(5)有害反応とくに晩期有害反応の検討,などがあげられる.わが国における頸癌による年間死亡数はなお4,000例前後にも達するとされて,とくに進行癌症例の克服が強く求められている.CCRは,さらに広く応用されるようになることが予想される.わが国の頸癌患者に適正な独白の治療方式を検討し,確立する必要があろう.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 2003-08-01
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