日本人の妊娠中毒症と遺伝子多型 : 各遺伝子多型と環境要因の相互作用解析(妊娠中毒症の病因 : 分子生物学的視点から)

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妊娠中毒症の複雑な病因・病態と遺伝・環境相互作用の解明を目標に,(1)日本人の妊娠中毒症と各遺伝子多型との関連分析と,(2)遺伝子多型と生活習慣との共同解析を行った結果,(1)AGT遺伝子多型TT型の頻度は母体年齢20〜34歳の症例では90%と,同年齢の対照の56%に比べて有意に高かった.35歳以上の高年妊娠においては,症例66%,対照57%と差を認めなかった.(2)AT1遺伝子AC+CC型の頻度は初産症例では20%と,初産対照の9%に比べて有意に高かった.(3)NOS3遺伝子GA+AA型の頻度は,症例では23%と,対照の12%に比べて有意に高かった.(4)AGT遺伝子TT型,NOS3遺伝子GA+AA型,高血圧の家族歴,妊娠前の肥満はそれぞれ独立に妊娠中毒症に関連していた.(5)ACE,血液凝固第V因子, MTHFR,β_3アドレナリン受容体, GSTP1,TNF-A,PAI-1,mEH,LPLの各遺伝子多型は,日本人の妊娠中毒症全体には関連しなかった.(6)GSTP1遺伝子IV+VV型の頻度は,症例,対照ともに26%であったが,初産重症例での検討で,AGT遺伝子MM+MT型の群では症例50%,対照26%,NOS3遺伝子GA+AA型の群では症例42%,対照13%と有意差が認められた.また,初産妊娠中毒症71例に対して,年齢をマッチさせた初産正常妊娠分娩213例を対照として抽出し,AGT遺伝子型とともに,臨床データおよび生活習慣・ストレスなどを同時に解析した.その結果,単変量解析では9項目が妊娠中毒症発症に有意に関連し,多変量解析では,それらのうち「AGT遺伝子TT型」「妊娠前のBMI≧24」「高血圧の家族歴」「妊娠中濃い味付けを好んだ」「妊娠中の精神的ストレス」の5項目が独立な危険要因として検出された.また,対象集団をAGT遺伝子型とを用いて2群に分けて解析すると,AGT遺伝子TT型の群には,「妊娠前に夫の実家との関係がよくなかった」「妊娠中夫との関係がよくない」などの7項目が有意に妊娠中毒症に関連し,多変量解析では「妊娠前のBMI≧24」「NOS3遺伝子GA+AA型」「高血圧の家族歴」「妊娠中の精神的ストレス」が検出された.一方,それ以外の群では,単変量解析で「妊娠前のBMI≧24」「妊娠中濃い味付けを好んだ」の2項目,多変量解析では「妊娠前のBMI≧24」が検出された.感受性遺伝子と環境要因の解析は,「多因子病態の集合体」である妊娠中毒症の病因病態分析,さらには病型分類に対しても,大いに役立つであろう.また,今回の結果は,初産婦において発症する妊娠中毒症の予防に,AGT遺伝子ダイビング結果による個別のストレス除去対策が有効であることも示唆している.遺伝子多型解析を用いた新しい疾病予防対策実現に向け,妊娠中毒症をよいモデルとして研究を推進したい.
社団法人日本産科婦人科学会の論文
2003-08-01

日本人の妊娠中毒症と遺伝子多型 : 各遺伝子多型と環境要因の相互作用解析(妊娠中毒症の病因 : 分子生物学的視点から)

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