自己表象の複雑性が抑鬱及びライフイベントに対する情緒反応に及ぼす緩衝効果について
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概要
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日々の生活の中では自分の思い通りに行かないことはいくらでも存在する。しかし, そうした体験によって誰もが極端な絶望感や挫折感に陥ってしまうわけではない。本研究では, 被験者に自由に自己の様々な側面を列挙させ, 列挙された側面についてあてはまる形容詞を選択させるという課題を用いて, 自己表象の複雑性を測定し, その高さが極端な情緒反応に対する緩衝要因となり得るかを検討した。自己複雑性は, 自己についての知識を体制化する際に用いる側面の数が多く, また, それらの側面がより分化している場合に, その数値が高くなる。本研究では, 自己複雑性をその情緒価によって肯定的自己複雑性と否定的自己複雑性とに区別し, 抑鬱並びに日常生活場面における情緒反応との関連を検討した。その結果, 研究1において, 抑鬱高群と低群では, 自己記述に用いた否定項目の数と否定的自己複雑性においては有意差が見出されず, 肯定項目数と肯定的自己複雑性においてのみ有意に高群で低いという結果が見出され, また, 重回帰分析の結果から, 否定的自己複雑性が抑鬱を促進するとともに, 肯定的自己複雑性が抑鬱を有意に抑制することが見出された。研究2では, 陽性情緒反応に関しては肯定・否定ともに自己複雑性の効果は見出されず, 陰性情緒反応において肯定的自己複雑性が有意に陰性情緒反応を抑制するという効果が見出された。肯定的自己複雑性が高ければ, 否定的な出来事があっても, 自分には良いところもあることを想起し, その影響を和らげることが可能である。しかし, 肯定的自己複雑性が低い場合, 失敗体験は想起される別の可能性や別の側面の緩衝を受けることなく, 自己全体を否定する出来事として体験されてしまう危険がある。その場合, 非行や自殺などの極端な行動に追い込まれる危険がそれだけ高まるだろう。その予防の上でも, 肯定的自己複雑性を高めることは重要なことであると考えられる。
- 1999-06-30
著者
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