歴史主体の構築技術と人類学 : ヴィシー政権期・仏領西アフリカにおける原住民首長の自殺事件から(<特集>統治技術から人類学へ)
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概要
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本稿では, ヴィシー政権期(1940-44年)の仏領西アフリカ・象牙海岸植民地西部でおきた原住民首長の自殺事件を事例にあげながら, 植民地統治技術および人類学の領域で同時代に生じた転換の経緯とその意味, および両者の連関を考察する。19世紀末の植民地化に際してフランス第三共和国から移植された歴史主体・国民主体の概念系は, 「人種」の萌芽としての「部族」, および「市民」の萌芽としての「臣民」という二つのレヴェルでの萌芽的主体の構築技術を仏領西アフリカにもたらしてきた。この点からみれば, 第二次大戦中に自殺した「原住民」首長の死亡証書とは, 単に仏領西アフリカの政治史に生じた転換(第三共和政の終焉)のみならず, 主体構築をめぐる統治技術史としても端境に位置する書類であり, くわえて当の「原住民」を対象としてきたアフリカ民族誌学の戦後の変質をも予示する文書だった。「ポストコロニーの主体」を積極的に記述していく近年の民族誌テクストは, この脱植民地期(1940∿50年代)に生じた人類学のパラダイム変換を20世紀末の新たな社会状況のもとで再考しつつコロニアル人類学からの最終的な訣別を企図しているにもかかわらず, 記述対象である他者にネオ・リベラルな「主体の客体化」をもたらしてしまうかぎりで, 植民地期にみられた歴史主体の構築技術との符合からけっして解かれていないことになるだろう。
- 日本文化人類学会の論文
- 2000-03-30
著者
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