脱社会主義下のトナカイ飼育業の再編 : 東シベリア・北部ヤクーチアの一地域社会の変容過程(<特集>シベリア研究の課題と現在)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
近年における世界先住民権運動の高まりとソ連崩壊後, 市場経済にさらされたロシア経済の不安定さが絡み合う中で, シベリアのトナカイ飼育文化が「危機」に瀕しているという言説が運動家・研究者から出されている。こうした言説は政治=文化運動の文脈においては, ある種のリアリティを伴いながら一定の成果を上げるのに寄与してきたことは確かなことである。一方, この「危機」の言説は, ソビエト社会主義70年の経験および現在の脱社会主義下状況を極度に単純化して批判しており, その具体的実状理解への接近を阻んでいるとさえいえる側面をもっている。そのため本稿では, そうした言説の背後の状況を, 東シベリア北部ヤクーチアの一地域社会の事例を通して探ろうとするものである。そもそも本稿が焦点をあてる地域社会とはソ連時代に全く新しく創出された。この歴史的展開を記述することで, 畜産業としてのトナカイ飼育が地域社会の基幹産業として確立される経過を提示する。というのもこれをふまえなければ現在進展する脱社会主義下すなわち市場経済化過程についてのアプローチが不可能だからである。具体的にはトナカイ飼育(職業)牧夫の親族関係と家畜所有, 所有を示すトナカイの耳印のあり方を中心に彼らの経済戦略を提示しながら, 地域社会がいかなる変容過程にあるのかを検討していきたい。
- 日本文化人類学会の論文
- 1998-06-30
著者
関連論文
- コメント2 : 「単体主義」の可能性(「グローバリゼーション」を越えて)
- オセアニアでの多様な観光 (現代社会と先住民文化--観光、芸術から考える(1)) -- (質疑応答および討論について)
- トナカイ! トナカイ!! トナカイ!!!--研究成果を市民に還元する自主展示の試み
- 都立大・社会人類学研究室の大塚先生(大塚和夫氏追悼)
- 東北アジア海域におけるアイヌと先住民交易 : 北海道、アムール・樺太、チュコトカの地域史比較にかかわる研究動向展望
- 岸上伸啓編, 『極北』(世界の食文化(20)), 東京, 農文協, 2005年3月, 252頁, 3,200円(税込)
- じんるいがくフェスティバル : 2010年度第二回東北地区研究懇談会報告
- エヴェンキ--トナカイ飼育の崩壊と狩猟への転換 (特集 ロシア北方の民--ソ連崩壊後の激動期を経て)
- 1920〜1930年代におけるサハの知識人と民族学的研究 : ロシア民族学史における断章
- エヴェン民族自治郡の形成とサハ共和国 : シベリア・北部ヤクーチア住民の社会主義経験
- ジェームス・フォーシス著(森本和男訳), 『シベリア先住民の歴史 : ロシアの北方アジア植民地 一五八一-一九九〇』, 彩流社, 一九九八年
- レーニントナカイと個人トナカイの間で : 東シベリア・ベルホヤンスク地域における家畜トナカイの分類・識別・所有をめぐる考察 (ユーラシア遊牧社会の歴史と現在)
- 脱社会主義下のトナカイ飼育業の再編 : 東シベリア・北部ヤクーチアの一地域社会の変容過程(シベリア研究の課題と現在)
- 角の民族誌--東シベリア,サハ共和国のトナカイ飼育民
- 佐々木史郎著, 『北方からきた交易民-絹と毛皮とサンタン人』, 初版, 東京, 日本放送出版協会, 1996年, 280頁, 1,100円
- ギリヤーキからニヴヒへ : 民族呼称の成立に関する一考察
- Developing a Landscape:Toward comprehending the diversified practices of the peoples in Northern Yakutia,Siberia (第13回北方民族文化シンポジウム報告 北方の開発と環境)
- 焼き印、あるいは淘汰される馬--シベリア、北部ヤクーチアの馬飼育における「馬群」再生産過程とその管理