花卉育種における倍数体の領域とその利用性に関する研究 : XII.ロードヒポクシスにみられる自然三倍体品種の性状と不ねん性について
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概要
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(1)南アフリカ原産の小型球根Rhodohypoxis属.は今世紀はじめに園芸化された新しいもので,近時ようやく十余の栽培品種の分化をみせているが,わが国に導入されている市販材料は花の色彩や大きさによって便宜的に区別されている程度である。本実験では1972年以.来それらの主なものを入手し,第1表のように9点に区別し,それらの性状とくに細胞学的特性さらに繁殖に関する不ねんの実態を明らかにしようとしたものである。 (2)本種の染色体数はすでに2n=12と報告されており,供試材料の小輪咲品種4点はやはりそれと同じであったが,俗にテトラとよばれている大輪咲品種5点はいずれも2n=18の三倍体であることが確かめられた。しかし地中にある若いつぼみの採取が困難であったため,それらの減数分裂像は観察されていない。 (3)三倍体品種の葉の孔辺細胞の長さおよび巾が二倍体のそれに比べて明らかに大きく,また一対の孔辺細胞の中にある葉緑体数も二倍体のそれに比べて約2倍ほど多くなっていた(第2表)。 (4)酢酸カーミン液染色によって判断される健全花粉粒率は,わずかに二倍体品種Beamuth Redの高率を除げば,二倍体・三倍体とも一様に低率であった(第3表)。その原因についてはそれら品種群に内在している遺伝的な雄性生殖細胞致死のはたらきと考えられたが,さらに三倍体についてはそのゲノム構成の異常から生ずる不対合染色体による致死の存在も推定された。また,温和な温室区に比べて戸外晩咲のものが一層低率であることは,環境的不良条件が花粉の死滅を助長しているものと思われた。つぎに健全粒の大きさについては,三倍体のものは二倍体に比べてやや大きくあらわれているが,変異のばらつきはかなり大きくなっていた。 (5)前項と対照的に雌性生殖細胞の生死を推定するために,開花当日および開花5日後の子房内の胚珠を切断して卵装置の健否を観察した(第4表)。その結果,二倍体2品種では開花日に39.5〜46.5%,5日後に36.0〜36.8%の健全卵装置が存在しており,三倍体2品種では前者よりやや劣って開花日24.4〜40.2%,5日後14.8〜37.9%となっていた。 (6)本種は雌・雄ずいが花筒内に深く座しているため自然開花放任でほとんど種子をつけることなく,人手による自殖強制でも1花当たり二倍体で0.02〜0.45粒,三倍体で0.13〜2.33粒を結ぶにすぎず(第5表),多分に強い自家不和合性の存在を示している。つぎに,品種間交雑で他殖させると,二倍体×二倍体で1花当たり8.60粒をつけるぼかりでなく,三倍体と二倍体との交雑でも5.03〜6.70粒の種子がえられた(第6表)。このように,三倍体が多少の程度で交雑種子を生産しうることは,今後の育種的展開に有効に利用されうる点であると思われる。
- 日本育種学会の論文
- 1975-12-31
著者
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