巻層雲の地上観測 : II. 波長8-12μm域における分光特性
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概要
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気象庁気象研究所では、上層の氷雲の構造と放射特性の同時観測を行うために、地上からの観測システムを開発した。この観測システムにおいて、雲粒子ゾンデ(HYVIS)とFourier変換型の分光光度計によって、雲の微物理特性と波長10μm域の分光放射の観測が行われた。HYVISの観測に基づき、氷粒子の粒径分布をべき乗分布で近似し、べき乗分布の下限と波長10.5μmの光学的厚さ(T_<10.5>)の組み合わせを変えて、観測放射のシミュレーションを行った。このデータを使って、エラーマップ上でエラーの最小値の点を見つけることによって、光学的厚さと粒径の情報を推定することができる。この推定法の特性を調べるために、光学的に薄い場合、中程度の場合、厚い場合について解析した。その結果、光学的厚さは、観測放射の大きさを決め、860〜980cm^<-1>の観測放射の傾きが粒径分布に関係していることが分かった。計算値と観測値は、9.6μmのオゾンの吸収帯を除いて±2mW/(m^2 sr cm^<-1>)(RMSで1.2mW/(m^2 sr cm^<-1>))以内で一致させることができた。観測誤差の影響を調べたところ、光学的厚さを推定するときには5%の系統的誤差は許容範囲であることもあるが、粒径の情報を推定するときには、1%の系統的誤差は大きな推定誤差を引き起こすことが分かった。更に、860〜980cm^<-1>の領域から推定した値は、全量域から推定したものとほとんど同じであった。また、1080〜1200cm^<-1>の領域のデータからは、粒径の影響を受けずに光学的厚さが決めることができるかもしれない。また、粒径分布として対数正規分布を使って、T_<10.5>と有効半径(γ_<eff>)を、べき乗分布を使うのと同じ精度で推定した。更に、推定したパラメーター間の関係を調べた。波長0.5μmの可視域の光学的厚さ(T_<0.5>)と波長10.5μmの赤外域の光学的厚さ(T_<10.5>)の比は6月22日の場合は、0.4〜1.0で、6月30日の場合は1.0-1.8であった。T_<10.5>とT_<0.5>の比は、有効半径が大きくなるにつれて大きくなる傾向がある。6月30日の場合は共鳴散乱領域にあったのかもしれない。T_<10.5>と有効半径の関係も調べたが、両者の関係は場合によって違った。6月22日の場合は、負の相関があるが、6月30日の場合は、有効半径が20〜85μmの間でばらついている。地上観測の時につくば上空を通過したNOAA-11衛星のデータについても調べた。その結果、衛星からの観測は、地上からの観測と矛盾がなく、そして、10μmの窓のチャンネル間で観測される輝度の大きな差は、10μm程度の小さな粒子と密接に関係していることが示している。
- 社団法人日本気象学会の論文
- 1999-04-25
著者
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