新規抗悪性腫瘍薬S-1のイヌ経口投与による52週間反復投与毒性試験
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概要
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S-1の0,0.1,0.5および2.5 mg/kg/dayを雌雄のビーグル犬に52週間経口投与(52週間反復投与試験)し,その反復投与毒性および回復性を検討した。さらに0,0.004および0.02 mg/kg/dayを52週間反復投与(低用量追加試験)して無毒性量の確認を行った。その結果は以下のごとく要約される。1. 52週間反復投与試験 : 1) S-1投与による死亡あるいは切迫解剖例が,2.5 mg/kg/day群で雌雄の各1例に認められた。一般状態の変化として,2.5 mg/kg/day群の雌雄で眼球結膜の黒褐色斑,角膜混濁,角膜血管新生,眼球結膜・上強膜の充血,瞬膜露出,眼分泌物などの眼の異常,体表面の黒褐色斑,糜爛,痂皮,化膿,脱毛および鼻分泌物などが認められ,0.1および0.5 mg/kg/day群の雌雄で眼球結膜および体表面の黒褐色斑が軽度ながら認められた。2) 体重では,2.5 mg/kg/day群の雄で投与46週より,雌で投与23週より低値または低値傾向が認められた。摂餌量および摂水量にはS-1投与の影響は認められなかった。3) 臨床検査では,2.5 mg/kg/day群の雌雄で,赤血球数,ヘマトクリット値,ヘモグロビン量およびリンパ球比率の減少,MCVおよびMCH,単球比率およびフィブリノーゲン量の増加が認められた。また,総蛋白および尿酸の増加が,アルブミン, コレステロール・エステル比,総コレステロール,遊離コレステロール,リン脂質,中性脂肪,コリンエステラーゼおよびクレアチニンの減少とγ-グロブリン分画比率の増加に起因するA/G比の減少が認められた。4) 眼料学的検査では,観察可能例の中間透光体および眼底像に異常は認められなかった。5) 器官重量の測定では,2.5 mg/kg/day群の雌雄で肝臓の重量比の増加,胸腺の実重量および重量比の減少傾向,副腎の重量比の増加あるいは増加傾向が認められた。また,精巣および卵巣の実重量,前立腺および子宮の実重量および重量比が減少傾向を示した。6) 病理組織学的検査では,2.5 mg/kg/day群の雌雄で眼における角膜萎縮,メラニン沈着および角膜固有層内毛細血管の増生,皮膚における毛包虫を伴った皮膚炎,表在リンパ節におけるメラニン沈着,マクロファージ集簇および形質細胞の増加などが観察された。7) 13週間の回復期間において,眼球結膜および表在リンパ節のメラニン沈着,角膜混濁および皮膚の変化に関連すると考えられる血液学的検査・血液生化学的検査の一部項目を除くほとんどの変化について回復あるいは回復傾向が認められた。2. 低用量追加試験 : 雌雄ともに死亡例は認められず,一般状態の観察,眼の肉眼的検査,体重および病理学的検査のいずれにおいても52週間反復投与毒性試験の低用量(0.1 mg/kg/day)群でみられた眼および皮膚の変化は観察されなかった。したがって,S-1を雌雄のビーグル犬に52週間反復経口投与したときの無毒性量は雌雄とも0.02 mg/kg/dayと考えられた。
- 1996-11-27
著者
-
井上 博之
食品農医薬品安全性評価セ
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小林 和雄
Biosafety Research Center Foods Drugs And Pesticides
-
北島 省吾
財団法人食品農医薬品安全性評価センター
-
岡村 孝之
財団法人食品農医薬品安全性評価センター
-
小林 和雄
財団法人食品農医薬品安全性評価センター
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渡 修明
財団法人食品農医薬品安全性評価センター
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井上 博之
財団法人食品農医薬品安全性評価センター
-
榎本 眞
財団法人食品農医薬品安全性評価センター
-
山口 修司
大鵬薬品工業株式会社製薬センター安全性研究所
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榎本 眞
財団法人 食品農医薬品安全性評価センター
-
山口 修司
大鵬薬品工業(株)製薬センター
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