咬合接触状態の不均衡が顎関節部粘弾性特性に及ぼす影響
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概要
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不均衡な咬合接触状態は顎関節部にさまざまな影響を及ぼし, 顎機能異常の発症因子の一つと考えられるが, 咬合援触状態が顎機能異常に及ぼす影響については統一した見解が得られていない。本研究では, 咬頭嵌合位における不均衡な咬合接触状態が顎関節部周囲軟組織の粘弾性特性に及ぼす影響について検討した。顎関節部周囲軟組織の粘弾性特性の測定には, 顎関節部粘弾性測定装置を用い, 解析パラメータを本装置の測定結果から得られる粘性値c, 弾性値kおよび慣性値mとした。実験1として, 顎機能異常患者における咬合接触状態と顎関節部粘弾性特性の関連性について検討した。被験者として, 顎機能異常に関する主訴を持ち, 上下顎第二大臼歯までが天然歯もしくは固定性修復物で覆われている顎機能異常患者28名(患者群)および健常有歯顎者10名(健常者群)を選択した。各被験者の咬合接触状態の評価は, 咬頭嵌合位における軽度咬みしめ時のシリコーン・ブラックを用い, add画像法によって上下顎歯間距離30μm以下を咬合接触点として画像処理を行い, 肉眼的観察を行い, さらに左右側小・大臼歯部の咬合接触面積の非対称性指数である咬合接触バランスの指数(AIOA)から評価した。また, 患者群については健常者群のAIOAを基準に, 健常者群の平均値+ISDよりも高い値を示した左右的不安定群(UGRL群)と健常者群の平均値+軸SDの範囲内にある左右的安定群(SGRL群)の2群に分類して, 顎関節部粘弾性特性を比較した。実験2として, 実験的に付与した不均衡な咬合接触状態におけるクレンチングが顎関節部粘弾性特性に及ぼす影響について検討した。被験者として男性健常有歯顎者10名を選択した。不均衡な咬合接触状態の付与にはオクルーザルスプリントを応用し, 均衡な咬合接触状態(コントロール群), 前後的不均衡接触状態(ACO群)および左右的不均衡接触状態(UCO群)の3条件でクレンチング前後の顎関節部粘弾性特性の変化を比較した。以上の実験から得られた結果を以下に示す。実験1について: 1. add画像のAIOAおよび肉眼的観察から, 顎機能異常患者をSGRL群とUGRL群の2群に分類したところ, SGRL群では前後的に不均衡な咬合接触状態であり, UGRL群では左右的に不均衡な咬合接触状態であった。これらの咬合接触状態で顎関節部粘弾性特性を比較したところ, 粘性値および弾性値で咬合接触状態が左右的に不均衡なものでは高く, 前後的に不均衡なものでは低かった。2. 健常者群と比較して, UGRL群では粘性値および弾性値が高い傾向を示し, SGRL群では, 粘性値および弾性値において低い傾向を示した。実験2について: 3. クレンチング前後の時間経過における顎関節部粘弾性パラメータのCV値は, コントロール群と比較して, ACO群およびUCO群では有意に高い値を示した。4. ACO群では, クレンチング前後における顎関節部粘弾性特性の変化様相がコントロール群と比較して異なり, クレンチング前後で弾性値kの変化が大きく, クレンチング直後から2分後にかけて低下した。5. UCO群では, クレンチング前後における顎関節部粘弾性特性の変化様相がコントロール群と比較して異なり, クレンチング前後で弾性値kの変化が大きく, クレンチング直後から2分後にかけて高値を示した。以上の結果から, 前後的あるいは左右的に不均衡な咬合接触状態は, 顎関節部粘弾性特性に影響を及ぼすことが示され, さらに長期間に及ぶ咬頭嵌合位における不均衡な咬合接触状態の放置は, 顎機能異常の発症あるいは増悪因子となりうることが示唆された。
- 大阪歯科学会の論文
- 1997-06-25
著者
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